漫画のエピソードはすべて実話。描かれている以上にケンカも多かった?
漫画『わが家は今日も建築中!』は、タカとナオコ夫妻が1年間の米国生活を終えて日本に帰国し、本格的に「マイホームを探そう!」と決意するところからお話がはじまります。妻のナオコは子どもたちにこれ以上、引越し・転校をさせたくないという母心もあり、マイホーム探しに全力を尽くしますが、夫のタカはどこか消極的。何かにつけてはケチをつけて、話が前に進みません。
お互いにイライラを募らせる妻と夫の姿、どこかで身に覚えがあるという人も多いはず。こうした漫画で描かれているエピソードは、すべて「実話」なのでしょうか。
「ストーリーはすべて実話です。しかも濃く脚色しているというより、お話としてわかりやすく、薄めているという感じです。実際はもっとケンカして私が家を飛び出し、一人、カラオケで歌っていたということもありました(笑)。もともと、私自身の家探しを漫画化するつもりはなく、その途中は必死すぎてメモもとっていなかったんです。実際に家ができあがり、生活がはじまったことで、当時の記憶と記録を振り返りながら、今、昇華している感じです」(尚桜子さん、以下同)と理由を明かします。
漫画では、理系で合理的、どこか保守的なところがある夫のタカと、心配性ながらも直感的、感情をしっかり表に出してコミュニケーションをとるナオコという、ご自身たちがモデルとなっている夫婦の姿が描かれています。2人の家探しは、まずは住む街選びからはじまり、現在、土地探しまで進行中です。
「街選びの段階で、タカはひと言目には『通勤時間が…』と言っていました。彼は愛知県出身で、ホームは愛知、東京は出稼ぎにきている場所というスタンスだったんです。出稼ぎだから家は勤務地から近いほどいい、通勤時間をかけるなんてバカバカしいという意識です。また、長男なので自分が家を守らなければという意識がどこかにあったのだと思います」と振り返るナオコさん。
妻からみれば、「現在の家族は私と子どもでしょ? なんで実家がでてくるの?(怒)」となりそうですが、夫からみれば「ふるさとと実家」は格別。東京にマイホームを購入することが、どこか「ふるさととの決別」のように思え、足を重くしていたのかもしれません。
「この問題はかなりやっかいで、妻としてモヤモヤするものがありました。ただ、苦労して向き合い、話し合ったところで、お互いに納得がいったんだと思います」といい、ケンカしながらも「住む街選び編」では良い結論を出すことに成功します。
夫にのしかかるプレッシャー、妻のやるせなさ。お互いにすれ違う思い
今後は土地契約から住宅ローンどうする、建物のテーマ決め~間取り決定、建物の着工~大工さんと建築士とのバトル、インテリア選び、念願の入居まで、まだまだお話は続いていくといいます。
「家を探すぞとなってから、実際に着工し、入居するまで2年かかりました。設計は漫画にもでてくる義理の兄であるトシにお願いし、あれこれ話し合いながら進めていったんです。これは、漫画でも描く予定ですが、途中でタカが『俺はいなくてもいいの?』というんですよね。結局、俺は住宅ローンだけ払っていればいいんでしょ、と。会社の同僚や友人などから、マイホームに居場所がなくて休日、持て余しているなんて話を聞くたびに、不安になっていたんだと思います」
昨今、夫婦共働きが増えたとはいっても、主となって住宅ローンを返済するのはまだまだ夫が多いもの。しかし長時間労働のため家にいる時間は少なく、必然的に「俺が住宅ローンを払っているのに、マイホームにいるのは妻と子どもだけ。居場所がない」という事態になりがちです。タカさんのように、夫からみれば「マイホームを買ったところで、俺にメリットないじゃん。いなくていいじゃん」という思いにかられるのも、ムリはないのかもしれません。
一方のナオコからみれば、子育てのために自身の仕事のペースを落とし、家事と子育てに多くの時間を割いています。お金にならない日々の家事、あきらめた夢……。「私の稼ぎだけで家が買えたらいいのに」という切ない思いに共感する妻も多いことでしょう。
「私たちはケンカや話し合いを重ねながらなんとか設計の段階まで進みましたが、そこでトシが「家の『テーマ』を決める」と言い出しました。トシは『間取りはパズルみたいなもので、テーマが何より大事』という建築士なんです。そのテーマを考える中で、お互いの思いがよりクリアになっていき、話が進むようになりました」といいます。
いったん完成しているけれど、家はこれからも成長していく
こうして、夫婦で向き合う作業を徹底的に行った結果、無事に新居へと引越しをし、現在、家族4人で暮らしています。
「家づくりの過程で徹底的に話し合ったからでしょうか、夫婦ゲンカがなくなりました。子どもたちにも言われましたからね。『パパとママ、ケンカしなくなったね』って。物理的に家が広くなり、気持ちにもゆとりができたのだと思います。また、カーテンや雑貨など、気に入ったものに囲まれているので、出かけることも減りました。家がいちばん心地よいので。マグカップ1コ、椅子1脚、高価ではないけれどそれぞれに思い出があるので、家が大好きですし、たいていのことは『ま、いっか』と受け流せるようになりました」とうれしそう。
そしてナオコさん以上に変わったのが、夫であるタカさんだ、といいます。
「これが自分の建てた家なんだと実感したんでしょうね、ここまで変わるのかと、驚いています(笑)。DIYにめざめていろいろ自作したり、芝生を植えて庭の手入れを楽しんでいます。またご近所との交流も増え、『自分の根ざす地域』ができたことで、心がまえも変わったように思います。本当の意味で居場所ができたというか。家探し、家づくりの工程をへて、ようやく子どもたちの親として成長できた。これは賃貸では得られないものだったと思います」と充実した表情です。
最後に、これから家探し、家づくりをする人に向けて、アドバイスをもらいました。
「私たちも、トシに言われたんですが、『一生で最もお金をかけるんだから、とことん楽しまないと損だぞ』と。家探し、家づくりは、めんどうだし大変だけど、夫婦できっちり向き合って、一つずつ結論を出していくことで、より理解が深まると思います。お金も手間もかかる壮大な趣味ともいえますが、とことん楽しむのがよいのではないでしょうか」といいます。
モデルとなった家はすでに完成していますが、「新築完成時がいちばんよい状態」ではなく、家族の成長とともに味わいを増す建材を使い、間取りも変化させられるようになっています。だからこそ、漫画のタイトルは、「わが家は今日も建築中!」。まだまだ完成しない家で、ナオコさん夫妻と家族の物語は、これからも続いていきます。
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