子育てグッズに加えて、お守り(背守り)などが届く!
「公園に行けば、子どもの声がうるさいといわれる」「ベビーカーを持って電車に乗ると、嫌な顔をされる」「どこのお店にいっても周囲に気を使い、謝りながら帰ってくる」……。そして、何より「どこにいけば孤独な育児にならないのか、分からない」といった「”孤”育て」について、悩んでいるママ・パパが圧倒的に多いということをご存じだろうか。
2014年、横浜で子育て中の母親たちが集めたアンケートには、上記のような声が寄せられたという。こうした状況を変えるために今、一番必要なのは「あたたかいまなざし」等に代表されるような「子育てを応援する文化」ではないか、という結論になり、横浜市戸塚区で始められたのが「ウェルカムベビープロジェクト」だ。
このプロジェクトは、赤ちゃんが生まれた家庭が申し込みでき、無償で街からの出産祝いが受け取れるというもの。また、単なる市販品をボックスにつめるのではなく、「本当に役立つかどうか」などと、選考会の基準をクリアしたもののみを贈ることに加え、「背守り」という地域の人がつくったお守りや、「サービス」(家事代行、おしゃべり会やコンサートの招待券)などが含まれるのが特徴だ。
2016年4月から運用をはじめたため、4月1日以降に生まれた子どもを対象に申し込みを受け付け、順次、この「出産祝い」を家庭に届けていくという。子育て中の筆者からすると、「これは戸塚の人がうらやましい……」というのが本当のところ。ちなみに、取材時(4月15日)の段階では、開始直後のため申し込みは数件程度だったが、問い合わせなどが、頻繁に入っているとか。
「里帰り出産しているお母さんたちが、戸塚の自宅に戻ってきて申し込むことも考えているので、これから数が増えると思います」と話すのは、仕掛け人であるNPOこまちぷらすの代表森祐美子さん。しかも今回のこのプロジェクト、税金などは使わず、民間主導で行っているという。企業として協同で参画しているのが、地方で「高齢者見守り支援」などの実績がある、ヤマト運輸。プロジェクトに携わったのは、ヤマト運輸の神奈川主管支店 石原克己さんだ。では、どのようにしてこのプロジェクトが生まれたのか、その背景を聞いていこう。
ママ・パパは、「世間の冷たい視線」を気にしている!
「そもそも、私どもが出会ったのは横浜市の企業マッチングがきっかけでした。高齢化や少子化、あわせて地域活性化のために、何か協同でできたらおもしろいね、というのが始まりです」(石原さん)
その間、ミーティングのなかでどちらともなく出てきたのが、フィンランドのベビーボックスだった。
「ただ、届けたいのはモノではなく、思いであり、『赤ちゃんようこそ』『お母さん、がんばっているね』という地域のあたたかい目、空気なんです。というのも、冒頭に申し上げたとおり、私どもが行ったアンケート(横浜市の子育て中の1562人を対象にしたもの)では、『子育て支援で何が必要ですか?』という質問に対しての答えの第1位が、『子どもを生み育てやすい地域のあたたかい目』だったんです。
『子どもの声は騒音か』という問題に象徴されるように、今、子育てしているお母さんたちは、本当に肩身の狭い思いをしている。そうではなく、“地域の商店や企業も、子育てを応援しているよ”という思いを、届けたいんです」と森さんは力をこめる。
ヤマト運輸の石原さんは「弊社には物流や配送のノウハウがあります。また運送スタッフは、インターホンを押すだけでなく、顔を見て、様子を知ることもできる。宅配を通じた見守りですね。こうした、地域とのつながりがうまれることが非常に大切だと考えています」と話す。
筆者も身に覚えがあるが、運送会社をはじめ、地域の人と話す、会話できることが、本当に育児中の息抜きになった。今回のプロジェクトのなかでも、「家事代行を利用した人が、掃除はいいから話相手になってほしい、といわれたことも。それくらい、お母さんたちは、孤独感を強めているんですよ」と森さん。
そのため、手間はかかるものの「地元の商店が提供するサービス」や地域の人がつくった「背守り」を、ボックスに入れ、「地元とのつながり」がうまれるような仕掛けをしているのだとか。
「背守りは、洋服のワッペンにしたり、よだれかけに縫い付けてもいいと思います。これを持っているお子さん、お母さんがいたら、地域の人が『コレ、私がつくったのよ』『大きくなったね』なんて話かけて、会話が自然に弾んだら、理想的ですね」と森さん。
目標は「子育てをしやすい文化」をつくること
気になるのは、今後の展開だ。横浜市戸塚区以外でも、出産祝いが受け取れるようになるのだろうか。
「私たちの目標は、『子育てしやすい地域や文化をつくること』。そのため、戸塚での取り組みは、数年でやめるつもりはありません。また、できる限り長く続けるためにも、税金や補助金に頼らないスキームをつくったんです」と石原さん。
「私も石原さんと同じく、息の長い取り組みにしていくことが大切だと思っています。ただ、ノウハウができたので、地域ごとに活動しているNPOなどが主体的に地域の商店街や企業とコラボして、新しい展開ができたらいいですね」と森さんは話す。
「子どもは社会の宝」とは、昔からいわれてきた言葉。個人が街なかでいきなりモノをあげることはできないが、もし、周囲で小さな子どもを連れたお母さん、お父さん方がいたら、せめて「あたたかい言葉」をプレゼントしてみたらどうだろう。きっと喜ばれるはずだ。
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