将来も農業人口の減少は進むことがあきらかななかで、国もこの問題に着目し、新しい利用への試みが始まっています。そこで農林水産省 地域振興課 荒廃農地活用推進班の小林博美さんに現状を聞きました。
再生の困難度で名称が異なる
「遊休農地」「耕作放棄地」「荒廃農地」といった言葉がメディアなどに登場することが増えています。いずれも、もともとは農地だったのが現在は農地としては使われていない土地を指します。
これらの名称は厳密には定義が異なります。
「荒廃農地」は現在耕作が放棄され、荒廃している土地で、通常の農作業では作物栽培が不可能な土地。一方、「遊休農地」には1号遊休農地と2号遊休農地があり、1号は農地として再生は可能であるものの、現在、耕作を目的にせず、今後もされないままになると考えられる土地、2号は周辺の農地に比べて極度に農業利用度が低い土地を言います。2号は荒廃化していませんが、1号は荒廃化しており、今後荒廃が深刻化する可能性が高い土地とも言えるでしょう。
遊休農地は農地法で定められた用語であり、荒廃農地は市町村が実施する調査の通知に定められた用語であるのに対し、「耕作放棄地」は、農林水産省が統計を取るうえで使ってきた言葉で、農業生産者の主観によって決まるとも言えます。しかし2020年以降は耕作放棄地という呼び名ではデータを取らなくなりました。
そこでここでは、1号遊休農地(特に農地再生の困難度が高い場合)も含めて、荒廃農地の現状を見てみます。
高齢化や後継者不足が大きな要因
荒廃農地の面積はこの10年ほど見ても横ばい状態ですが、農地全体の面積は減少しているため、荒廃農地が占める割合は大きくなっています。また、荒廃農地の中でも森林化するなど、農地への再生が特に困難な土地の比率は67.6%にもおよびます。
荒廃農地が出てくる理由を小林さんは次のように説明します。
「最大の理由は農業生産者が高齢化したり、後継者不足、つまり農業の担い手が減っていることです。一方、土地から見た場合は、自然条件の厳しさ。特に中山間地域はそうです」
機械化されたとはいえ、農業には体力が必要です。高齢化し、若手が減れば、耕作できる面積は減り、荒廃化が進むことになります。また小林さんは、土地所有者に「土地への関心心」が薄れていることも指摘します。
自然条件の厳しさというのは、土地整備が難しいことを意味します。一般に農地は、圃場、農道、灌漑設備、防災設備などの整備を必要としますが、例えば中山間地域では、道が狭く、整備のための重機などを持ち込むことができない場所が多いため、それが耕作放棄につながっています。
また中山間地域では鳥獣被害も大きな理由となっています。
荒廃農地が増えていくことは農業生産が減ることはもちろん、湛水機能(水田などが水を貯める機能)がなくなる、害虫などが発生して周辺農地に被害が出る、景観が損なわれる、廃棄物の不法投棄が増えるなど、さまざまな弊害が出てきます。このことは、農地が農業生産だけでなく、多面的な機能を持つ証拠とも言えるでしょう。
農水省では、遊休農地対策、荒廃農地の発生防止・解消、そういった対策の一つとして遊休農地への課税強化などもしており、課税強化は通常農地の固定資産税の1.8倍となります(※1)。一方で、遊休農地の解消は難しく、土地所有者が荒廃農地を売ろうとしても、耕作条件が不利、買い手がつかない、価格が安いなどの理由でむずかしく、なかなか利用が進んでいないのが現状となっています。
※1:通常の農地の固定資産税の評価額は、売買価格×0.55(限界収益率)だが、遊休農地は0.55を乗じない。その結果、通常農地の約1.8倍の税額となる。
無理のない効率的な利用を促進
では荒廃農地を解消(予防)するにはどうすればよいのでしょうか。
これには大きく二つの方法があります。第一は、土地の収益力を高めること、第二は、所有者以外の農地利用を促進することで、両方が同時に行われる場合もあります。
第一の方法の例としては、少し前から始まったソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)があります。土地に支柱を立て、地上では農業を、支柱の上方にはソーラーパネルを設置して太陽光発電を行います。太陽光発電設備は一度つくってしまえば、売電によって継続的な収入が得られ、農業のような労働を必要としません。農業を行いつつ、安定的な収入を得て、同じ面積の農地からより大きな収入を得る方法です。ただし、これは、ソーラーシェアリングの設備が撤去可能である、撤去費用の支払いが可能、農作物栽培に適した日照量を確保できていることなど、いくつかの厳しい条件が付けられています。
自治体主導の例では、土地の特性を活かした方法が出てきています。
「最近、推進しているのは粗放的利用です。農地性を失わないよう、あまり労力やコストをかけず、効率的に農地を利用する考え方です」(小林さん)
既に次のような取り組みが始まっています。
今後、栽培に手間のかからない植物を育て、生薬の原料とする、有機農業によって健康食品を生産する、といったことも期待されています。
担い手の力を引き出すことが大きなポイント
第二の、所有者以外の農地利用の促進とは、言い換えれば、効率的かつ安定的な農業経営を行う者(担い手)が農地を利用することです。
なぜなら日本の農地所有者のかなりの割合が農業の担い手ではないからです。
この「担い手」とは、自分で農作業を行い、主な収入を農業で得、今後も農業経営をする計画を持っている人(村落や法人を含む)のことです(※2)。
今の日本の全農地で、こうした担い手が利用する農地の割合は58%(2020年)でしかありません。理由はさまざまですが、高齢化や後継者不足と関係なく、農地を持っていながら意図的に農業をしない(主収入は会社員など別の仕事で得ている)「土地持ち非農家」と呼ばれる人たちが相当数います。
そのため、意欲ある若手農業者、新規就農者などの担い手が農地を利用できない、散在する農地をまとめて効率的な農業を進めることができない、といった問題があり、これが農地荒廃化の遠因とも言われています。
※2:「担い手」とは、5年間の農業経営改善計画を市町村に提出して認定される「認定農業者」等を指す。
そこで、農水省では2023年までに、全農地の8割を、担い手が利用する農地にすることをめざし、農地の集積・集約化をはかっています。その手段の一つが2014年に、各都道府県に設立した、農地中間管理機構(通称:農地バンク)です。
これは農地所有者と農業の担い手との中間に立つ受け皿的組織で、農地バンクは農地所有者から農地を借り、それを担い手に貸し出す役割を果たします。農地を借りたい個人や企業は農地バンクに登録することで、貸したい農地所有者とつながることができます。一方、農地所有者は自らが耕作しない農地でも、農地バンクを通じて担い手を見つけられるため、遊休農地にしないですむ効果があります。農地バンクの取扱実績(転貸面積)は、設立時(2014年度)の2.4万haが、2020年度には29.5万haと急伸しています。
担い手ではないが農業をしてみたい人、つまり二拠点居住、週末農業といったライフスタイルを志向する人が増えている今、荒廃農地をそうした層が利用するというニーズも出てきているようです。
「半農半Xなどニーズはあると思います。しかしそれに応えるには交通アクセスが重要。都市部とのアクセスのよい場所なら、貸しやすいし、直売場をつくって再生した農地からの収穫物を売ったりすることもしやすくなります」(小林さん)
例えば、もともと都市部の市民から市民農園の要望が強かった北九州市では、都市に近い場所の荒廃農地を市民農園につくり替え、人気を集めています。
逆に中山間地などアクセスの良くない農地は、都市住民などの利用はむずかしいと言えます。
地域によっては外部からの参加に対して周辺住民の理解を得ることのハードルが高かったりと、簡単には行かないことも多いようです。
このように農地を荒廃化させない方法は、各地域の自然や立地条件に左右されますし、農地の売買や利用は農地法によって厳密に定められているため、一般の私有地のようには扱えません。使えない(使わない)農地の所有者は、農地バンクをはじめ、まずは最寄りの市町村の農業委員会やJAに相談することが大切でしょう。
●取材協力
農林水産省