台湾の家と暮らし[4] 台南の歴史地区・安平の古民家に暮らし、アートで高…

台湾の家と暮らし[4] 台南の歴史地区・安平の古民家に暮らし、アートで高齢者と若者をつなぐ活動も

写真撮影/KRIS KANG

暮らしや旅のエッセイスト・柳沢小実が台湾の家を訪れる本連載。昨年は3軒のお宅におじゃましましたが、今年の1軒目におじゃましたのは、徐瑞陽さん(通称・クーパーさん)が住む、台南市・安平にある小さくて愛らしい平屋の一軒家です。歴史的な地域にある築80年の一軒屋での暮らしやまちおこし活動について、お話を伺いました。
連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年4回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。2019年に続き柳沢さんが、自分らしく暮らす方々の住まいへお邪魔しました。

台湾南部の港町、台南・安平へ

台南市の中心地から車で約20分。安平は台湾南部の古都・台南市の一角にある、貿易で栄えた港町です。オランダ人が創建した台湾最古の城堡「安平古堡」、イギリス商人の古い倉庫にガジュマルの木が絡みついた「安平樹屋」、清朝の名臣によるフランス式の要塞「億載金城」などの古跡があることで知られ、観光スポットのひとつとして、国内外から多くの人が訪れています。ここにはオランダ統治時代、鄭氏政権時代、清朝統治時代、日本統治時代などに建てられた貴重な建築物の数々が残っており、建物からも台湾の歴史を追うことができます。

狭い小道の両側に、各家庭で育てている植物の鉢が置かれています。眩しい光と湿度の高い空気、まぎれもなくここが台南なのだと感じます(写真撮影/KRIS KANG)

狭い小道の両側に、各家庭で育てている植物の鉢が置かれています。眩しい光と湿度の高い空気、まぎれもなくここが台南なのだと感じます(写真撮影/KRIS KANG)

クーパーさんのご自宅は、オランダ統治時代(1624年~1662年)につくられた台湾最古の商店街・安平老街の中興街という通りにあります。この地域の住宅の屋根や壁、門などには、沖縄のシーサーに似た「劍獅」と呼ばれる獅子のモチーフがついていて、それぞれの家を守っています。

劍獅は民家の壁にもあしらわれています。その表情はさまざま(写真撮影/KRIS KANG)

劍獅は民家の壁にもあしらわれています。その表情はさまざま(写真撮影/KRIS KANG)

特徴的な門の上の飾りは、武器をモチーフにした昔の文化財。当時は泥棒や海賊対策でつけられていましたが、今は魔除けの意味をもち、クーパーさんの家だけに飾られているものだそうです。

実は、五年ほど前に偶然前を通って、印象に残っていたこの家。のちに取材に来るとは思ってもみませんでした。台湾はそんな素敵な偶然がたくさん(写真撮影/KRIS KANG)

実は、五年ほど前に偶然前を通って、印象に残っていたこの家。のちに取材に来るとは思ってもみませんでした。台湾はそんな素敵な偶然がたくさん(写真撮影/KRIS KANG)

門の飾りに平安への願いをこめて(写真撮影/KRIS KANG)

門の飾りに平安への願いをこめて(写真撮影/KRIS KANG)

この家はもともとボロボロで、住むにあたって大家さんが壁や屋根を補修しました。この地域で家のリフォームなどをする際は、台南市に申請して許可をもらう必要があり、その代わりに古い建物の保全のために少額ですが助成金が支払われます。

風が抜けて心地よいリビング。六畳とコンパクトですが、住みやすく整えられて閉塞感は皆無です(写真撮影/KRIS KANG)

風が抜けて心地よいリビング。六畳とコンパクトですが、住みやすく整えられて閉塞感は皆無です(写真撮影/KRIS KANG)

その一角にワークスペースがあります。棚には資料がぎっしりと(写真撮影/KRIS KANG)

その一角にワークスペースがあります。棚には資料がぎっしりと(写真撮影/KRIS KANG)

壁は、芯の部分はレンガで、外側はモルタルに牡蠣の殻を砕いて混ぜたものが使われています。内側には防寒のために、50年前の新聞紙が貼ってありました。屋根はもともとは瓦でしたが、今は小規模な家を直してくれる職人さんがいないために、修繕で板金に変わりました。おかげで、夏場はとても暑いそうです。

50年前の新聞紙が貼られた室内の壁(写真撮影/KRIS KANG)

50年前の新聞紙が貼られた室内の壁(写真撮影/KRIS KANG)

小さく愛らしい古民家との出合い

家は20坪の土地に建っていて、敷地面積は15坪。間取りは各6畳ほどの部屋が3つにキッチン等が付いた3Kです。

間取り(イラスト/Rosy Chang)

間取り(イラスト/Rosy Chang)

安平は昔から家を建てられる土地が狭く、どの家もコンパクト。かつてこの家には、中国から渡ってきた2家族が住んでいました。
ちなみに、古い家に住んでいて不便な点は、3月に「反潮現象」で海から湿度が高い南風が吹いて床が濡れることだそうです。

高雄市出身のクーパーさんは昔から古い家や庭付きの家が好きで、海の近くに住みたいとずっと考えていました。台南市の芸術大学で建築芸術を学び、高雄市橋頭の文化協会で働いていたこともあります。安平の街のことは、学校の空間デザインの仕事をしていた時に知りました。

中興街にて(写真撮影/KRIS KANG)

中興街にて(写真撮影/KRIS KANG)

この街に住むことになったのは、安平に住みたくてブラブラ歩きまわっていた際に、陶芸家の友人から別の陶芸家が住んでいたこの家を紹介されたのがきっかけ。最初は又貸しで借りていて(台湾は賃貸物件の又貸しがOKなのです)、のちに大家さんと直接契約をしました。
街の人は好奇心が旺盛で、引越してきた時は、近所の人たちが「なぜここに?」と口々に聞いてきたそうです。小さな街では近所の人たちと仲が良く、ドアは開けっ放しでも安心なほど。近所との関係が濃いと言います。

(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

こじんまりした、住みたくなる路地。たわわに実をつけたマンゴーの樹があり、その下では猫がのんびりと昼寝をしていました(写真撮影/KRIS KANG)

こじんまりした、住みたくなる路地。たわわに実をつけたマンゴーの樹があり、その下では猫がのんびりと昼寝をしていました(写真撮影/KRIS KANG)

建物の壁には牡蠣の殻などが埋め込まれていました(写真撮影/KRIS KANG)

建物の壁には牡蠣の殻などが埋め込まれていました(写真撮影/KRIS KANG)

鮮やかな色の花が咲き乱れて奥には十二宮社三靈殿がある。台南らしい風景が広がります(写真撮影/KRIS KANG)

鮮やかな色の花が咲き乱れて奥には十二宮社三靈殿がある。台南らしい風景が広がります(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

ギャラリーで心の交流を

5年前からは、さらに自宅の隣の建物も借りて、ギャラリーを運営し始めました。才能があれば職業や年齢は関係なく、アーティストではない一介の人を見出して作品を紹介しています。漁師で画家のおじさんが描いた魚の絵や、90歳のおばあちゃんが描いたお花の絵、近所に住む子どもの絵の展示も行っています。ギャラリーの展示は、春分、夏至、秋分、冬至の年4回実施。出展料や入場料は取らない代わりに、グッズ等を自分でデザインして、その売り上げを収入にしています。

クーパーさんが営むギャラリー(写真提供/クーパーさん)

クーパーさんが営むギャラリー(写真提供/クーパーさん)

今春開催されている展覧会「日常の中でささいな幸せを感じること(原題:生活裡讓你快樂的小事)」には、90歳のおばあちゃん吳占さんによる絵が展示されています。絵を描くことはおばあちゃんにとって一番幸せな時間です(写真提供/クーパーさん)

今春開催されている展覧会「日常の中でささいな幸せを感じること(原題:生活裡讓你快樂的小事)」には、90歳のおばあちゃん吳占さんによる絵が展示されています。絵を描くことはおばあちゃんにとって一番幸せな時間です(写真提供/クーパーさん)

このギャラリーの目的は、外から訪れる若い人だけでなく、地元のお年寄りにも楽しんでもらうこと。ギャラリーに来た人が、外に座っている近所のおばあちゃんたちと立ち話したりするのがうれしいのだとか。これが彼が考える町の活性化。外の人に認知してもらって収入を得ながら、住んでいる人にも心の豊かさと訪れた人との交流を提供しています。
そして、昔の建物や地方の歴史をより多くの人に知ってもらいたいと、zine(小規模・少部数の紙媒体)やトークイベントなどを通じて、昔の人の話を伝えています。

地元のお年寄りの話をまとめたzine(写真撮影/KRIS KANG)

地元のお年寄りの話をまとめたzine(写真撮影/KRIS KANG)

新聞のようなスタイルでつくったzine。漁師のおじさんや、絵の紹介がされています(写真撮影/KRIS KANG)

新聞のようなスタイルでつくったzine。漁師のおじさんや、絵の紹介がされています(写真撮影/KRIS KANG)

zineの裏側は、漁師のおじさんが描いた魚の絵。力強いタッチとビビッドな配色が魅力的(写真撮影/KRIS KANG)

zineの裏側は、漁師のおじさんが描いた魚の絵。力強いタッチとビビッドな配色が魅力的(写真撮影/KRIS KANG)

古い町並みを保全し、発展させるために

ちなみに、安平のような古い町は近年台湾の若い人たちにも人気があって、ここに住んでお店や小さい宿をやりたいという人も多くいます。けれども、そもそも家の数自体が少ないのと、たとえ空き家があっても使用するためにはそれぞれ元の持ち主の子孫などたくさんいる持ち主全員に許可を得なければならず、貸し出しや修繕がなかなかできないそう。台湾の不動産事情で根深い問題だとクーパーさんは話してくださいました。

(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

(写真撮影/KRIS KANG)

昔ながらののどかな町並みで、住む人の生活も垣間見られる中興街。偶然来た人だけが知ることができる、宝物のような場所です。この通りは奇跡的にかつての雰囲気を残していますが、3本ある通りのうちの2本は商業化して、いわゆる観光地になってしまいました。
ビジネスだけが目的の人が訪れると、そこの昔ならではの雰囲気は壊されてしまいます。景観だけでなく、住む人の生活も守りたい。この通りには小規模な宿やフランス人が経営しているカフェがありますが、今後はそのような生活感や街の良さを尊重したスポットがさらに増えるといいと彼は考えています。どの土地も、代わりのないかけがえのない場所。クーパーさんは、古跡の保全と高齢者との交流という、大きなテーマに向き合っています。

台湾のおばさまはとてもお洒落。そして目が合うとにっこりと微笑んでくださいます(写真撮影/KRIS KANG)

台湾のおばさまはとてもお洒落。そして目が合うとにっこりと微笑んでくださいます(写真撮影/KRIS KANG)

近所にある芋菓子「蜜地瓜」の屋台。サツマイモに黒糖水をからめながら6時間かけてつくる安平でおなじみのスナック。「仕上げにピーナッツシュガーパウダーをまぶしたまろやかな口当たり。幸福感と郷愁を感じます」とクーパーさん(写真撮影/KRIS KANG)

近所にある芋菓子「蜜地瓜」の屋台。サツマイモに黒糖水をからめながら6時間かけてつくる安平でおなじみのスナック。「仕上げにピーナッツシュガーパウダーをまぶしたまろやかな口当たり。幸福感と郷愁を感じます」とクーパーさん(写真撮影/KRIS KANG)

サツマイモの甘みが濃厚に引き立ち、手が止まりませんでした(写真撮影/KRIS KANG)

サツマイモの甘みが濃厚に引き立ち、手が止まりませんでした(写真撮影/KRIS KANG)

●展覧会情報
「日常の中でささいな幸せを感じること(生活裡讓你快樂的小事)」
会期:2020年4月19日(日)までの土・日・月・火曜
時間:13:30~18:00
住所:台南市安平区中興街47号
チケット代:50元/枚(ポストカード1枚をプレゼント)
※マスクを持参して着用してください。
※入り口にアルコール消毒液を設置します。
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※上記の開催イベント情報は現地・台湾のものです。現在、台湾では、海外からの渡航者に対しては一定期間の外出禁止令が出ています。

引用元: suumo.jp/journal

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