「平屋の多い都道府県」ランキング1位は沖縄じゃない!? TOP10を九州…

「平屋の多い都道府県」ランキング1位は沖縄じゃない!? TOP10を九州が席巻、新築半分以上が平屋の県とは?

(写真撮影/北島和将)

「今、平家が空前のブーム」この言葉にピンときますでしょうか? SUUMOでは、2023年のトレンドワードとして、「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表しました。比較的地価の高い都会に暮らす人には、平屋が建てられるような条件はなかなかそろうわけもなく、その人気は実感しようもありません。ところが、全都道府県の新築一戸建て(※注)の平屋率を調査してみると、都会暮らしの人には想像もできないような意外な事実が……。都道府県別であまりにも違う平屋事情を見ていきましょう。

九州で高い平屋率。宮崎県、鹿児島県では新築一戸建ての半分以上が平屋

SUUMOが2023年のトレンドワードとして「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表した背景には、最近の平屋のニーズの大きな変化があります。現在ブームになっている平屋は、建物面積で15坪(約50平米)から25坪(約83平米)くらい、間取りは1LDK~2 LDK位のコンパクトなもの。適度な大きさで動線が効率化されていること、価格の手ごろさから、子どもが独立して2階部分を持て余しているシニア夫婦、一人暮らしや一人親世帯など、さまざまな世帯で平屋が選ばれており、2022年に着工された新築の一戸建て住宅(※注)のうち、約7件に1件は平屋になっています。
それでは、気になるランキングはどのような結果になっているのでしょうか。

※注 記事中の「一戸建て」と「平屋率」の定義=国土交通省が発表している建築着工統計調査より、居住専用住宅の建築物の地上階数1階~3階の総棟数のうち、地上階数1階の棟数の割合を集計し「平屋率」としている。構造は木造・鉄骨造など全構造の合計。3階建てまでの居住専用住宅には、アパートやマンションなどの集合住宅も含むため、すべてが一戸建てではないが、本記事では便宜上一戸建てとしている。1階建ての集合住宅は非常に出現率が低いため、実際の新築一戸建ての平屋率は本記事の試算より高くなると考えられる(本記事内共通)

都道府県別平屋率1位~20位

都道府県別色見表

都道府県別平屋率21位~47位

出典:国土交通省 『建築着工統計調査 / 建築物着工統計』※注に記載の通り

なんと、1位の宮崎県、2位の鹿児島県は2022年に着工された3階建て以下の新築住宅のうち、過半数以上が1階建て、つまり平屋です。九州地方は福岡県を除くすべての県で平屋率3割を超え、上位10位以内にランクイン。続く平屋率が20%を超える20位までの上位グループには、香川県、愛媛県などの四国勢、群馬県、茨城県、栃木県の北関東勢が並びます。全国最下位の東京は1.4%と、新築約71件に1件の割合。そりゃ都内では見かけないはずです。上位の地域はもともと平屋率が高かったことに加え、前述の世帯の少人数化や、家事動線の良さ、冷暖房がワンフロアで完結するため光熱費が低く済むこと、さまざまなメリットが認知され、この8年の間に平屋率は150%~250%ほど上がっています。

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熊本地震をきっかけに、揺れに強い平屋の関心が増加。地域独特の気候も影響

では、どうしてこんなに九州で平屋率が高いのか?熊本県で注文住宅を中心に手掛ける工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんに聞いてみました。

「同じ九州地方でも地価が高い福岡が上位に入っていないことからも、まず、土地が比較的安く手に入ることが大きいと思います。さらに九州は日常の移動はほとんどが車で平置き3台の駐車場を希望される方がとても多く、ご家族で3台乗るケース、ご家族2台に来客用、という方も多くいらっしゃいます。それから、熊本では、2016年の熊本地震をきっかけに、平屋を希望される人がぐっと増えました。建物が自らの重みでつぶれている様子を目の当たりにして、2階の重みがなく、地震の揺れに強い平屋に、より注目が集まったのです。家が倒壊して建て替えが必要になった人だけでなく、初めてマイホームを持たれる方も、これから建てるなら地震に強い構造がとりやすい平屋がいいと希望される方が増えました」

(写真提供/グッドハート)

(写真提供/グッドハート)

実際、熊本県で震災後に平屋を希望する人が増えたことは話題になっていたそうです。一方、災害といっても、近年多い水害においては、高い建物に避難する必要があり平屋は不利です。ただ、いつ来るかわからない地震に比べ、水害は何日か前から予測でき、早めに避難をすれば命は守れることを考えると、まずは日常の生活のしやすさと、予測不能な有事を優先するというのは合理的です。

台風・火山噴火、地域独特の気候が平屋率にも影響

また、宮崎県、鹿児島県を中心に注文住宅・分譲住宅を手掛ける万代ホームのハウジングアドバイザー西原礼奈さんは、以下のように話します。

「宮崎、鹿児島は、以前から建売住宅やモデルハウスも平屋で建てることが多く、2階建にする場合でも総2階(※1)でなく、一部分だけや、中2階(※2)を取り入れる程度です。これには台風や桜島の噴火などの影響があると思います。壁面は低いほど台風の強風に耐えられます。火山灰が降ってくる地域では、屋根に積もった灰の掃除なども雨どいを守るためには必要で、平屋は高い建物に比べ対処しやすいのです」

(写真提供/万代ホーム)

(写真提供/万代ホーム)

熊本大学 大学院で建築構造・防災建築を研究している友清衣利子教授も、「台風が多い九州は、耐風性の観点から、住宅の高さや屋根の勾配を低く設計する傾向にあります」とコメント。

「九州では、屋根の対策のほかにも、雨戸やシャッターなどで窓やドアなどの開口部を守る建築上の工夫がされているのが一般的です。
さらに、2018年と2019年の台風被害をきっかけに、住宅の耐風性が着目されるようになったと実感しています。国土交通省が屋根の留め付けなどの対策を発表していますが、それらが世の中で反映され、変わっていくのはこれからだと思います」(友清教授)

では、台風と平屋の関係について、気象庁が発表している1951年以降の都道府県別、台風の上陸数上位ランキングを見てみましょう。

※1.総2階/1階部分と2階部分がほぼ同じ面積となる建て方。直方体のような形になる
※2.中2階/階と階の中間に設けられる床部分のことで、スキップフロアともいう。平屋の場合の中2階は、2階がなくロフトのような形状となる

台風の上陸が多い都道府県ランキング

出典/気象庁ホームページ 台風の統計・資料より 統計期間:1951年~2023年第1号台風まで

最も台風の上陸数が多かったのは平屋率2位の鹿児島県、続いて長崎県、宮崎県、熊本県も平屋率が高く、台風の影響を受けやすい地域で平屋率が高いことは明らかです。

ここで疑問が。台風といえば、沖縄県が上位のランキングに入っていないのはどうしてでしょう。気象庁の解説をよく見ると、「上陸」の定義は台風の中心が「北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合」。小さい島や半島を横切って短時間で再び海に出る場合は「通過」、そして、沖縄県、鹿児島県の奄美地方のいずれかに近づいた(各気象官署等から300 km以内)場合は「沖縄・奄美に接近」と、「接近」という分類になるため、この地域には台風の「上陸」と定義される事象が存在しないようです。

そんな台風の通り道、沖縄といえば、イメージするのは低く構えた赤瓦屋根の平屋に風よけの石垣やブロック塀、屋敷林の伝統的な家。さぞかし平屋率は高かろうと見てみると全国3位。ただ、2014年から2022年の8年の間に平屋率は47.4%から41.7%にダウンしています。ほとんどの都道府県が8年間で平屋率が大きくアップする中、これは何故なのでしょうか。

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

台風接近の多い沖縄県の平屋率がダウンしている理由には、独自の住宅文化とその変化があった!

前出の都道府県別平屋率を全国と沖縄県について住宅の建て方(構造)別に集計してみました。

全国と沖縄県の構造別着工棟数の割合(2014年と2022年の比較)

全国と沖縄県の構造別平屋割合(2014年と2022年の比較)

構造別の着工棟数割合を見ると全国では圧倒的に木造の比率が高く約9割。これはどの都道府県でも同じ傾向です。ところが、沖縄は鉄筋コンクリート造(RC造)、コンクリートブロック造の比率が高く、木造比率は2014年時点で14% と低い、独特な住宅文化を持っています。沖縄県は全国の中でも比較的森林比率が低く、特に木材の生産目的で苗木を植えるなどして人が手を加えている「人工林」の割合は全国一低いのです。

そのため、貴重な木材を再利用しながら家を住み継いでいく「貫木屋(ぬちやー)」という独特の工法が古くから受け継がれてきました。戦後の復興では伝統的な工法でない木造住宅が一時的に増えますが、多湿な気候に合わず白アリ被害が拡大したこと、度重なる台風被害を受けたことからRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やコンクリートブロック造のニーズが高まっていったことがこの独特な住宅文化の背景です。

ところが近年、コンクリート価格の高騰、本州からのハウスメーカーの進出、木造住宅の工法や建材、防蟻処理の進化などにより木造住宅の割合が急速に増えてきました(2014年14.0%→2022年38.6%)。これら、増加してきた木造住宅が平屋ではなく2階建て以上で建てられていること(木造の平屋率2014年30.9%→2022年16.5%)が、沖縄県の平屋率ダウンの要因です。

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岩手・宮城でも平屋率ダウン、福島県で横ばいとなっている背景には東日本大震災の影響が

沖縄と同じく、平屋率が2014年より下がっている県がほかにもあります。
岩手県 2014年 16.0% →2022年 15.7%
宮城県 2014年 13.6% →2022年 8.8%
また、福島県も 2014年 14.7% →2022年 15.4%と、平屋率はほぼ横ばいです。

市区町村別の人口や着工戸数の変化を見てみると、東日本大震災直後は、被害の大きかった地域の住宅再建が進み、それらの地域は比較的土地区画が広く平屋が建てやすかったのに対し、近年は人口も住宅需要も都市部に集中してきており平屋という形態がとりにくくなっていること、また、宮城県の都市部では新築マンション供給が増加しており、平屋志向が強い高齢者がそれらも選択肢に入れていること等の要因が考えられます。

割高とされていた平屋の価格は2階建て並に。メンテナンスしやすさも魅力

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

このように、都道府県によって事情は違えど、全国的にはますますシェアが高まる平屋は、その家事動線の良さ、地震や風などへの強さ、コンパクトなことで光熱費を抑えられることなど時代に合った魅力が多く、検討してみたいと思っている人も多いかと思います。ただ、私がかつて工務店に取材した際には、例えば100平米の平屋を、1階50平米、2階50平米の総2階建てと比べた場合、建築コストは1.2倍程度と割高になる、と聞いたことがあります。理由は、平屋は基礎部分や屋根の面積が大きいことによる材料費や施工費の増加。実際今もそうなのでしょうか?

「施工方法や工務店によって一概には言えませんが、当社の場合では、同じ面積ならば平屋も2階建てもほとんど坪単価は変わりません。確かに屋根や基礎の大きさは平屋の方が大きいのですが、平屋の場合、工事用の足場が低く済むこと、高所作業が減ることで建物の施工費が安く済むんです。メンテナンスにおいても、約10年ごとに必要な壁の塗り替えも大きな足場作りは不要ですし、屋根修理にも同じことが言えます。また近年注目が集まっている太陽光パネルは、床面積に対して屋根が広い平屋は広く置くことができ、発電できる量において有利です」とグッドハート宮本さん。

建設作業現場での事故を無くすために建設現場には「労働安全衛生規則」という詳細なルールを守ることが義務付けられているのですが、墜落・転落防止のための足場の作り方や管理については法改正がたびたび行われており、今後もさらに強化される予定です。
このような変化がある中で、平屋は割高とは限らなくなってきているんですね。

ちなみに、SUUMOジャーナルの人気記事ランキングでも、4月~6月は平屋の実例記事の数々が上位を占拠しました。東京にいると、平屋の人気は実感しがたく、実例紹介を始めてからの反響の多さには本当に驚きました。地域独特の住宅文化は気候や時代の影響も強く受けていることがわかり、私たちもさまざまな情報をアップデートしていかねばと強く実感した取材でした。

引用元: suumo.jp/journal