「奥下北沢」は、深く根付いたサブカルチャー色と、古くからの住人が醸すローカル色が残っています。そんなエリアの新たなお店を、15年間この地に住む生粋の奥下北沢ラバーであり、古民家ギャラリー「DDDART」オーナーでもある、手槌真吾さんと若手ギャラリースタッフの皆さんに案内してもらいました。
奥下北沢は“古き良き下北沢”が感じられるエリア。今、注目すべき理由とは?
手槌さんによると、「奥下北沢」とは茶沢通りと淡島通りを挟んで下北沢寄りの地域を指すそう。
「淡島通りから梅ヶ丘通りあたりまでを、この辺りの人の間で『奥下北沢』と呼ぶようになりました。淡島通りを挟んで三軒茶屋方向の『奥三軒茶屋』という呼称が定着しているので、その下北沢側という意味です。茶沢通りは、その名の通り三茶と下北沢をつなぐ道で、二つの街の個性が移り変わるところが面白いんですよ。淡島通りを境にアドレスが代沢(下北沢)と太子堂(三軒茶屋)に切り替わるので、雰囲気が変わるんです」(手槌さん)
「奥下北沢」は茶沢通り沿いの下北沢側。今回手槌さんに案内してもらうお店も、このエリア限定でピックアップ
もともとサブカルチャーの街である下北沢は、そこに集う人々から自然発生的に生まれた混沌としたエネルギーが魅力。昨今の開発を経た下北沢駅前エリアは、洗練された一方でかつての空気感が失われつつあるのも事実です。ただしサブカルチャーの担い手たちが下北沢を去ったわけではありません。そのエリアが、少しずつ下北沢の周辺に拡張する現象が起きているのです。
今回紹介する奥下北沢も、駅前開発以降に活気が増しているエリアのひとつ。
案内人の手槌さんの古民家ギャラリー「DDDART」も、奥下北沢の新たなカルチャースポットとして2022年10月にオープン。世界的に評価の高い奥田雄太さんの新作など、話題の展示を次々と企画して注目を集めています。
目を引くのはレトロな古民家をエッジの効いた空間に仕上げた内装。それもそのはず、オーナーである手槌さんは、旬の飲食店や宿泊施設の施工を手掛ける、腕利きの大工さんなのです。「DDDART」は手槌さんが古民家を借りて、自らリノベーションしたそう。
「サブカルチャー的な雰囲気と住宅街の落ち着きを併せ持つ奥下北沢が好きで、2014年から今まで、このエリアの古民家に空きが出るたびに賃貸してリノベーションしてきたんです。それぐらいこのエリア愛が強いので、“場所ありき”の発想で、ギャラリーを始めました。特に近年は下北沢の開発の余波でこの辺りも盛り上がってきていますし『今だ!』という感じでオープンしました」(手槌さん)
手槌さんによれば、駅前の開発と時期を同じくして、個人オーナーが構える面白い店が、辺り一帯に増えてきたそう。
「新たに奥下北沢に店を持つ人は、開発後の新しい面もサブカルチャーの歴史もひっくるめて、このエリアに魅力を感じているのかもしれません。今後は、駅前施設との相乗効果で、新たな層のお客さんにも足を伸ばしてもらえることを期待しています」(手槌さん)
ローカルとサブカルチャーの融合が、奥下北沢の魅力。15年間奥下北沢に仕事場と住居を構え、その魅力を知り尽くした手槌さんに案内してもらいましょう。
まずは手槌さんがオーナーを務める「DDDART」から。手槌さんはギャラリーを通じて、どんなカルチャーを届けたいと考えているのでしょうか。
街や人、アートの背景もまるごと発信していきたい
手槌さんはかつてTV番組『TVチャンピオン』(テレビ東京系)のリノベーション選手権で準優勝したことがあるなど、そのセンスと腕前には定評がある大工さん。「DDDART」は古民家の渋味を活かしながら、縁側の庭に面したクリアなガラス窓や、真っ白にペイントした小部屋がアクセントになっています。
「アート作品は作家自身のクリエイティビティが前面に押し出されていて、その自由さにインパクトを受けます。そういった刺激を受けることで、本業の建築分野でもインスピレーションが湧いてくるんです。現代アートが好きになって、作家さんやコレクターさんなどの、アート業界の知り合いが増えるにつれ『自分の空間づくりの技術で、アート業界に貢献したい』と考えるようになりました」(手槌さん)
とはいえギャラリーの聖地といえば銀座や六本木が思い浮かぶもの。奥下北沢のギャラリーとして、どんな個性を発信していきたいのでしょうか。
「都心にあるホワイトキューブ(余分な凹凸や装飾が無い白い箱のこと)のギャラリーには、洗練された格式の高さがあります。でも飾る場所によって見え方が変わるのもアートの面白いところ。奥下北沢ローカルの街の空気感と古民家をアレンジした展示空間、そこに現代アートを置いたときの科学反応を楽しんでもらいたいです。
日本の現代アートは海外の市場、特にアジア圏からのニーズが高いのですが、そういう方々にもきっと奥下北沢ローカルと古民家とアートのマッシュアップは刺さると思います。実際に最近は海外からのお客さんも増えていますし、展示会の告知をすると世界中から作品の問い合わせが来ますよ」(手槌さん)
手槌さんは、これからはもっと地域との連携を深めていく予定だといいます。
「この秋には、この奥下北沢を中心としたアートフェスを企画しています。ギャラリー、アーティストを起点にライブペインティングや伝統工芸、歌舞伎、映像、NFT販売、日本酒、メスカルなどを絡めて、アートと地域の結びつきをアピールしていきたいですね」(手槌さん)
奥下北沢×アートの広がりに注目です!
DDDART
苑 世田谷区代沢4-41-12
凪 世田谷区代沢4-41-2
月:CLOSED
火~日:12:00-19:00
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ギャラリースタッフが案内する、奥下北沢のオススメスポット!
「Yellow CAFE」「Salmon & Trout」など、知る人ぞ知る人気カフェやレストランが多い奥下北沢。今回はギャラリースタッフのいわいさん、わたなべさんと一緒に奥下北沢散歩。最近の奥下北沢の盛り上がりを象徴するような、新しいお店をピックアップしてもらいました。それぞれのオーナーにお話もうかがったので、お店めぐりの参考にしてくださいね。
2022年12月にオープン。グリーンが豊かでリラックスできるオープンカフェです。コーヒーやスコーンがおいしくて、朝早く(8時)から営業しているのも嬉しいポイント。オーナーの飯島花奈さんは建築設計デザイン事務所「Plants & Plan」の代表でもあり、2階には事務所も。
「下北沢の駅から歩いて15分ぐらいのロケーションは、お散歩に最適。落ち着いた生活の場でもあるし、外から遊びに来る人もいる。そんなちょうど良さがあるのが、奥下北沢だと思います。
街と交わるひとつの手段として、建築事務所+αで何かをやろうと考えて始めたのがこのカフェでした。お客さんには老若男女、いろいろな方がいますね。半分屋外の開放的な空間になっているのも、理由かもしれません。お散歩がてら小さな公園に立ち寄るように気軽に使っていただけることをイメージしてつくりました。『ワンちゃんが入れるように』と考えていたのですが、ベビーカーも入りやすいこともあって、小さなお子さま連れの方も多いです」(飯島さん)
Pati coffee&plants
東京都世田谷区代沢4-34-13
8:00-18:00
OVERLAP CLOTHING
2023年4月オープン。オーナーであるスタイリストのmizuno ryoheiさんと「OVERLAP CLOTHING」 ディレクターの inaba marieさんがセレクトする古着屋さん。お店やinaba marieさんのInstagramで、古着の着こなしをチェックするのも楽しい。
「もともとこの辺りに土地勘があって、気持ち良い場所だなと思っていたんです。そんなときにこの物件を見つけて。ビルのオーナーさんがカフェをやっているというのも好印象でしたし、その横のちょっと奥まったところに入口がある感じも、落ち着いていて好みでした。
私たちにとってここは富ヶ谷店に続いて2店舗目のショップになります。夫はスポーツミックスなスタイリングが得意なので、お店でもスポーティなウェアの取り扱いが多いですね。
私はアメリカンクラシックを取り入れた着こなしを提案しています。ラルフローレンなどの“今だからこそ着たい”ユニセックスでトラッドな古着を、大人の女性が着るのがすてきだと思っていて。コーディネートはお店や私個人のInstagramでも発信しているので、気になった方はのぞいてみてください」(inabaさん)
OVERLAP CLOTHING mishuku
東京都世田谷区代沢4-34-13
12:00-19:00
MANGOSTEEN LIQUORS / 万珍酒店
「メスカル」というアガべを使った蒸留酒をメインに、よろず「万」めずらしい「珍」をテーマに多様なお酒を販売する酒屋さん『万珍酒店』。加えて角打ちバー、ラウンジ、デリ販売なども行っている。母体であるMANGOSTEENは、2000年にカフェ、ケータリングチームとしてスタート。昨年11月より山梨県北杜市のMANGOSTEEN HOKUTOにてビールの醸造をスタート。音楽・食・酒のMIX UP PARTY『MUSICO』も開催している。店長の宮川義浩さんによると、この店は音楽好きのMANGOSTEENにとって、特別な歴史のある場所だそう。
「ここは以前『プラスチックス』という伝説的なテクノポップ・バンドの人たちが遊び場兼ギャラリーにしていた場所だったんです。僕たちはもともと近くでケータリングをやっていて、新店舗を探していたタイミングでこの場所に出会い、出店を即決しました。
『万珍酒店』の特色は独自のルートで輸入しているメスカルのラインナップです。メスカルはアガベを原料に自然発酵させて作るメキシコの蒸留酒。水とアガベだけでできているので、ヌケが良く悪酔いしにくいのが特長です。
自社製のクラフトビールは軽い味わいで、柑橘系やハーブの軽やかな味わいのものもあり、メスカルのチェイサー(口直しに飲むもの)としても楽しめます」(宮川さん)
万珍酒店
東京都世田谷区代沢4-29-14 葵ビル 1F
03-6413-8819
14:00-22:00
お店のインタビューをして気がついたのは、オーナーさんそれぞれのやり方で、お店を通して街の人々と丁寧に向き合っていること。その気遣いや、日常的に交わされるやり取りが、ローカルな魅力につながっているのかもしれません。
街に息づくサブカルチャーを、ギャラリーから感じ取るには
今回は、最新のアートスポットである「DDDART」を起点とした奥下北沢散歩ルートを紹介しました。でも、そもそも「ギャラリーの楽しみ方が今ひとつ分からない」という人もいますよね。最後に初心者でもギャラリー巡りを楽しむための秘訣を手槌さんに聞いてみました。
「初心者でも何も気にすることはありません。ヨーロッパでは、誰もがもっとカジュアルにギャラリーを訪れていますよ。僕は日本でも、そんな文化が根付けばいいなと思っています。
入場も無料ですし、お散歩ついでに訪れてみてください。作品は貴重なものなので、触ることはNGですが、そうでなければ写真を撮影してもらっても、問題ありません。
作家さんへのリスペクトがある、愛ある感想なら、SNSに投稿してもらうことも歓迎です! 多くの人に空間とアートを楽しんでもらえたら嬉しいです」
作品は高額なものばかりでなく、数万円で購入できるものもあるとのこと。ギャラリー通いのなかで運命の作品との出会いがあれば、コレクターデビューするのも素敵ですね。
下北沢を訪れたら、今度はぜひその奥まで、足を延ばしてみてください!
DDDART
苑 世田谷区代沢4-41-12
凪 世田谷区代沢4-41-2
月:CLOSED
火~日:12:00-19:00
dddart.jp
※2023年6月17日(土)に上記DDDART オンラインストアをリニューアルオープン