シングルが住み続けたい街で阿佐ケ谷界隈が席巻中! “じわじわ”良さがわか…

シングルが住み続けたい街で阿佐ケ谷界隈が席巻中! “じわじわ”良さがわかる街の魅力を探ってみた

(撮影/石原たきび)

リクルートが首都圏在住の20歳以上の男女を対象に調査し、2022年10月に発表した「東京23区シングル家賃8万円以下住み続けたい駅ランキング」(「SUUMO住民実感調査2022首都圏版 家賃水準別住み続けたい駅ランキング」より)が、なかなか面白い結果になっている。
ポイントは「住みたい」ではなく「現在、住んでいる人が今後も住み続けたい」というところ。そうなると、ちょっと事情が違う。決して“派手”ではない駅が上位を独占したのだ。

1位に南阿佐ヶ谷、6位に阿佐ヶ谷がランクイン

まずは、下のTOP10を見てほしい。

住み続けたい街ランキング2022

「SUUMO住民実感調査2022首都圏版 家賃水準別住み続けたい駅ランキング」は、首都圏に住む20歳以上の男女に、現在住んでいる街に住み続けたいかを聞き、その希望度が高い駅・自治体をランキングした「SUUMO住民実感調査2022首都圏版」の上位の中から、賃貸物件の家賃相場が一定の基準以下の駅だけでエリア別にランキングしたもの(出典/リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022」)

奇しくも杉並区と世田谷区の駅ばかりだが、純粋に23区内の駅でアンケートを取った結果がこれだ。

1位に南阿佐ヶ谷、6位に阿佐ヶ谷がランクイン。阿佐ヶ谷には昨年末のM-1グランプリ2022で優勝したウエストランドが所属する事務所、タイタンもある。

筆者は高円寺に長く住んでいたので、お隣の阿佐ヶ谷も好きな街。馴染みの飲み屋も何軒かある。しかし、この結果は正直、意外だった。決して派手ではなく、都内に住んでいてもどんな街か知らない人も多そうだ。なぜ、住み続けたいのか。人気の理由を探るために街に繰り出した。

目と鼻の先に杉並区役所がある南阿佐ヶ谷駅

まずは、堂々1位の南阿佐ヶ谷駅。

新宿駅から丸ノ内線で10分ちょっとという近さ(撮影/石原たきび)

新宿駅から丸ノ内線で10分ちょっとという近さ(撮影/石原たきび)

ケヤキ並木が美しい中杉通りが青梅街道に突き当たる場所で、目と鼻の先には杉並区役所がある。

さまざまな手続きにも便利なエリア(撮影/石原たきび)

さまざまな手続きにも便利なエリア(撮影/石原たきび)

ここをスタート地点にして、6位に食い込んだJR中央線の阿佐ヶ谷駅周辺までを歩いてみたい。

「パールセンター」は日々の生活に根差した商店街

南阿佐ヶ谷と阿佐ヶ谷を結ぶパールセンター商店街(撮影/石原たきび)

南阿佐ヶ谷と阿佐ヶ谷を結ぶパールセンター商店街(撮影/石原たきび)

60年以上の歴史をもち、全長は約700m。常に活気があり、アーケードの商店街なので雨の日ものんびりと買い物ができる。

ほどなくして見えてきたのは、たい焼き専門店の「たいやき ともえ庵」。この場所で営業を始めたのは9年前だが、ひっきりなしにお客さんがやってくる。商店街の中でもかなり大きな存在感を放っているのだ。

店長の安部 翔さん(30歳)にご挨拶。

手にしているのは一番人気の「白玉たいやき」(350円)(撮影/石原たきび)

手にしているのは一番人気の「白玉たいやき」(350円)(撮影/石原たきび)

人の流れを見ていてどんなことを感じますか。

「阿佐ヶ谷の住人は老若男女のバランスが取れています。スーパーや青果店が価格競争をするので、肉も魚も野菜も安いし、日用品の買い物にも事欠きません。1日2万人ぐらいの人通りがありますが、よく見ていると毎日同じ方たちが歩いているんです。この商店街に来るのが日課になっているんでしょうね」

確かに、同じ中央線の中野、高円寺、吉祥寺にもアーケード商店街はあるが、いずれも他から遊びに来る人も多い場所。しかし、パールセンターは地元の住民が毎日のおかずを買いに来る人がほとんどという、生活に根差した商店街なのだ。

自慢のたい焼きは、一匹ずつ焼く「一丁焼き」にこだわる(撮影/石原たきび)

自慢のたい焼きは、一匹ずつ焼く「一丁焼き」にこだわる(撮影/石原たきび)

アーケード商店街の中にトークライブハウス

続いて、すぐ近くのトークライブハウス、「阿佐ヶ谷LOFT A」へ。阿佐ヶ谷はアニメスタジオや映画館、古書店など、エンタメやカルチャーを楽しめるスポットも多い。そんな中でも特に「阿佐ヶ谷LOFT A」は阿佐ヶ谷のエンタメを支えている存在だ。

オープンは2007年。マンガ、アニメ、アイドル、お笑い、映画、などさまざまなジャンルのトークやアコースティック演奏などが楽しめる。

テーマは「コミュニケーションを主体とした空間」(撮影/石原たきび)

テーマは「コミュニケーションを主体とした空間」(撮影/石原たきび)

「新宿ロフト」を中心に各地でライブハウスを運営する「ロフトプロジェクト」の一員だが、それにしても、なぜ阿佐ヶ谷に出店したのだろうか。店長の齋藤 航さん(42歳)に聞いてみた。

「物件を決めるにあたって、にぎやかな商店街の中という立地がよかったんです。自分は一昨年からここの店長になりました。それまでは新宿の歌舞伎町や渋谷の円山町といった夜の繁華街ばかりで働いてきたので、子どもやお年寄りの姿はほとんど見ませんでした。阿佐ヶ谷はそうではなく、安心感というか、人が住んでいる街だなと思います」

「芸人さんがたくさん住んでいるので、お笑いライブもよくやります」と齋藤さん(撮影/石原たきび)

「芸人さんがたくさん住んでいるので、お笑いライブもよくやります」と齋藤さん(撮影/石原たきび)

「スターロード」、「一番街」という2つの飲み屋街

さて、パールセンターを抜けてJR阿佐ヶ谷駅南口に着いた。いつの間にか「スターバックス」や「コメダ珈琲店」ができている。

スタバは2017年、コメダは2021年にオープン(撮影/石原たきび)

スタバは2017年、コメダは2021年にオープン(撮影/石原たきび)

南口には人々が思い思いに休息する広場がある。

街には人も鳩もくつろげる空間が必要なのだ(撮影/石原たきび)

街には人も鳩もくつろげる空間が必要なのだ(撮影/石原たきび)

阿佐ヶ谷駅周辺には「スターロード」、「一番街」という飲み屋街が放射線状に広がっており、いずれも個人店が頑張っている。

「スターロード」のに「立呑風太くん」(撮影/石原たきび)

「スターロード」の「立呑風太くん」(撮影/石原たきび)

ここは筆者が気に入っている立ち飲み屋で、明るいうちから大勢のお客さんでにぎわっている。オーダーごとに「カーン」というゴングを威勢よく鳴らしてくれる趣向も面白い。

新宿ゴールデン街の風情にも似た「一番街」(撮影/石原たきび)

新宿ゴールデン街の風情にも似た「一番街」(撮影/石原たきび)

この2つの通りでは、毎夜さまざまな交流が生まれる。

約1500人を集客する「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」

とはいえ、よほどの酒好きでもない限り、知らない店にふらっと入るのはハードルが高い。そこで、2019年に誕生したのが立ち飲みスタイルの「アサガヤアンナイジョ」だ。

阿佐ヶ谷の飲み屋事情に詳しい店長が、お客さんにマッチしそうな店をいくつか紹介してくれるというのが売り。いわば、飲み屋のコンシェルジュだ。意外にも、訪れる客の7割が女性だという。

共同オーナーの左・鈴木伸弥さん(39歳)、右・森口剛行さん(46歳)(撮影/石原たきび)

共同オーナーの左・鈴木伸弥さん(39歳)、右・森口剛行さん(46歳)(撮影/石原たきび)

阿佐ヶ谷には飲み屋が数多くあり、店同士の結びつきも強い。この“文化”を広く周知させ、店の扉を開けるのを躊躇していたお客さんとともに街全体を盛り上げていこうという思いから森口さんが立ち上げたのが「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」。

10年前から始まった、このイベント。回数券を購入すれば、3日間の開催期間に格安料金で飲み歩ける。2022年秋の時点で参加店舗は107軒。コロナ禍で参加者は一時減ったが、昨年11月の開催では約1500人の酒好きを集客した。

祭りの日に「アサガヤアンナイジョ」で乾杯する人々(画像提供/アサガヤアンナイジョ)

祭りの日に「アサガヤアンナイジョ」で乾杯する人々(画像提供/アサガヤアンナイジョ)

ここで、鈴木さんが面白いことを言った。

「住み続けたい街に選ばれる理由ですか? 阿佐ヶ谷は中杉通りのケヤキ並木の空気感も含めて気がいいと思います。街全体のバランスがいいというか。僕、そういうのに敏感なんですよ。帰省後に阿佐ヶ谷に戻ると田舎より落ち着きます」

ジブリ作品『猫の恩返し』の舞台にもなった中杉通りのケヤキ並木(撮影/石原たきび)

ジブリ作品『猫の恩返し』の舞台にもなった中杉通りのケヤキ並木(撮影/石原たきび)

森口さんも言う。

「マイナスの理由で街を出て行く人は少ない印象ですね。同棲したり結婚したりで、2DKの高い家賃が払えないから引越すというケースはあると思います。阿佐ヶ谷で一人暮らしをするなら、物件は5万円台からありますし」

阿佐ヶ谷は「じわじわと良さがわかる街」

さらに向かったのは南口に事務所を構える会社「エヌキューテンゴ」。ここでは、近所や地域とつながりながら暮らす不動産の企画や、街と関わりながら暮らすためのプロジェクトなどを手がけている。

阿佐ヶ谷は「じわじわと良さがわかる街」だと代表の齊藤志野歩さん(43歳)は言う。

「派手なものはないけど、日常的に楽しい暮らしはできる街。駅前に人が集まるというよりは、周辺エリアに手づくりのお菓子屋さんや小さいものづくりの工房があるんですよね。あとは、若い店主が多いので、そういう人たちと仲よくなると住み続けたいという気持ちも強くなるでしょう」

JRの協力のもと、駅ビル内に季節ごとのイベント情報を掲示している齊藤さん(撮影/石原たきび)

JRの協力のもと、駅ビル内に季節ごとのイベント情報を掲示している齊藤さん(撮影/石原たきび)

大勢で街を歩きながら齊藤さんがセレクトした物件の内見もできる「ディスカバリーツアー」も企画している。

周辺環境も含めて、住む場所を選んでほしいという趣旨(画像提供/まち暮らし不動産)

周辺環境も含めて、住む場所を選んでほしいという趣旨(画像提供/まち暮らし不動産)

「阿佐ヶ谷は商業地と住宅地がつながっていて、緑も多く、散歩には最適な街。『神社の裏側の道は夏でも涼しい』、『道に迷ったら鉄塔を目印にする』など、知っているとすぐに阿佐ヶ谷民の仲間入りができるようなスポットも案内しています」

阿佐ヶ谷の賃貸物件事情について、齊藤さんはこう言う。

「7万円台とかでちょっと小ぎれいな1R、1Kが多いので、シングルには住みやすい街でしょうね。ただ、5万円代となるとあまりないので、そういう物件を希望する人は西武新宿線沿いの井荻、鷺宮寄りに住む傾向があります。丸ノ内線の南阿佐ヶ谷駅の向こう側、成田エリアも緑が多くて家賃もリーズナブルですね」

さらに、7年前に南阿佐ヶ谷駅から徒歩5分の場所にできた「プラウドシティ阿佐ヶ谷」についても言及する。

「プラウドシティ阿佐ヶ谷」は5街区、全575戸の巨大分譲マンション(撮影/石原たきび)

「プラウドシティ阿佐ヶ谷」は5街区、全575戸の巨大分譲マンション(撮影/石原たきび)

「あの物件ができてから、各媒体が発表する『住みたい街』といわれるランキングで南阿佐ヶ谷が上位に来るようになりました。青梅街道の向こう側にも店が増えています。また、中杉通りが南側に延伸するという計画もあって、それが実現すると街の重心がもう少し変わってくるかもしれません」

青梅街道を右に進むと「プラウドシティ阿佐ヶ谷」に着く(撮影/石原たきび)

青梅街道を右に進むと「プラウドシティ阿佐ヶ谷」に着く(撮影/石原たきび)

お客さんの多くが阿佐ヶ谷在住という喫茶店

お次は北口へ。

まずは、2020年にスターロードの入り口にオープンしたばかりの喫茶店、「喫茶天文図舘」を訪れた。店内は宮沢賢治の世界をイメージしたノスタルジックな空間だ。

喫茶店好きのオーナー、山城隆輝さん(28歳)が言う。

「駅の1日の乗降客数は、荻窪が約24万人、高円寺が約10万人、そして阿佐ヶ谷が9万人なんです。外から入って来る人の数が少ないことが、住みやすさにつながっているのかもしれません。あまりわちゃわちゃしていないし、駅からちょっと離れると夜はめちゃくちゃ静かですよ」

山城さんはお隣の荻窪育ちなので、阿佐ヶ谷にも土地勘がある(撮影/石原たきび)

山城さんはお隣の荻窪育ちなので、阿佐ヶ谷にも土地勘がある(撮影/石原たきび)

お客さんの多くが阿佐ヶ谷在住。店に入って来た瞬間に、地元の人なのか外から来たのかがなんとなくわかるという。

一番人気のクリームソーダ(750円)は空と海の色をイメージしている(撮影/石原たきび)

一番人気のクリームソーダ(750円)は空と海の色をイメージしている(撮影/石原たきび)

「阿佐ヶ谷で好きなお店ですか? たくさんありますよ。喫茶店なら『パーラーエル』や『ヴィオロン』、割烹料理と居酒屋の中間みたいな『將』(はた)の料理もすごく美味しいです」

会社を辞めて日本中をヒッチハイクで周っていた山城さん。第二の人生の舞台に阿佐ヶ谷を選んだ。

国内外の準新作や旧作を上映するアットホームなミニシアター

スターロードを少し北上すると、住宅地の中に2022年7月にオプーンしたミニシアター、「Morc阿佐ヶ谷」が見えてくる。

支配人代行の趙 子男さん(33歳)は中国の遼寧省出身。国際基督教大学(ICU)入学を機に来日した。

「こんなに長く日本にいるつもりじゃなかったんですけど」と趙さん(撮影/石原たきび)

「こんなに長く日本にいるつもりじゃなかったんですけど」と趙さん(撮影/石原たきび)

ここは名画座でかけるような作品を上映する、いわゆる二番館。作品は自分で実際に見て選んでいるという。

「ミニシアターなので自由に実験できるのが利点。持ち込みにもなるべく応えたいと思っています。例えば、女子高生が消費税増税反対を訴える青春ドラマ、『君たちはまだ長いトンネルの中』は予想を超えて満席に。いろんな作品を積極的に受け入れることも重要だなと思いました」

住宅地にあるせいか、午前中は年配の客が多い。作品によっては若い人であふれる。一方で、通りすがりにふらっと入って来る客もいるそうだ。

阿佐ヶ谷の印象について聞いてみた。

「街全体の文化度が高くて、ほかの駅とは違う落ち着いている感じ。駅の近くに豆腐屋さんが3軒あるんですが、そういう街は今あまりないのでは。取引先のところに訪問する際は老舗和菓子店、『うさぎや』さんのどら焼きを持参します。こういう、昔の雰囲気を残す個人経営のお店が愛され続けているのが阿佐ヶ谷の貴重なところではないでしょうか」

客席数は41、1日に4~6本が上映される(撮影/石原たきび)

客席数は41、1日に4~6本が上映される(撮影/石原たきび)

映画館は文化の象徴。「Morc阿佐ヶ谷」の使命は大きい。

レンガ通りの道沿いには個性的な店が並ぶ

ここからは、松山通り(旧中杉通り)を進む。ゆるやかに下る道沿いには、駅周辺とはちょっと毛色が違う個性的な店が立ち並ぶ。

松山通り商店街では特売やフリーマーケットが定期的に開催される(撮影/石原たきび)

松山通り商店街では特売やフリーマーケットが定期的に開催される(撮影/石原たきび)

レンガ敷きの道をのんびり歩いていると、気になる路地が数多く目に入る。

路地を覗くと何かを待っているかのように、その場から動かない野良猫(撮影/石原たきび)

路地を覗くと何かを待っているかのように、その場から動かない野良猫(撮影/石原たきび)

阿佐ヶ谷のカルチャーを支える気鋭の古書店

通りの途中でお邪魔したのは「古書コンコ堂」。店名の由来は「玉石混交」から。音楽、文学、漫画、美術、絵本など、幅広いジャンルの古書を取りそろえる。

2011年にオープンしたコンコ堂(撮影/石原たきび)

2011年にオープンしたコンコ堂(撮影/石原たきび)

「独立するにあたって中央線沿いでいろいろと探していたんですが、阿佐ヶ谷の場合、パールセンターは賃料が高いし、線路沿いは飲み屋街。店を出すなら松山通りだなと。意外と夜遅い時間まで人が歩いているんですよ」

客層は老若男女さまざまで、ほぼ地元の人。古書店にしては平均年齢が低いそうだ。

コンコ堂店主の天野さん(撮影/石原たきび)

コンコ堂店主の天野さん(撮影/石原たきび)

「観光客が来る街じゃないけど、面白い個人店がたくさんあります。ご飯も美味しいし、居心地はいいですね」

取材終わりに天野さんが「そういえば、阿佐ヶ谷はいま古着屋さんが増えているんですよ」と言っていた。

ここ1、2年で急激に増えた古着屋は現在10店舗

阿佐ヶ谷に古着屋のイメージはなかったが、そのまま松山通りを下っていくと古着屋を発見。

ずいぶんと洒落た外観(撮影/石原たきび)

ずいぶんと洒落た外観(撮影/石原たきび)

こちらは、すべて一点物の古着を扱う「JUDEE」。オーナーの高塚草太さん(28歳)に話を聞いた。

「2018年にこの店をオープンしました。高円寺で出すか阿佐ヶ谷で出すか、ずっと迷っていたんですが、激戦区の高円寺よりは、阿佐ヶ谷でもうちょっとゆったり伸び伸びやりたいなと思って」

専門学校を卒業後、高円寺の古着屋で働いたのちに独立した高塚さん(撮影/石原たきび)

専門学校を卒業後、高円寺の古着屋で働いたのちに独立した高塚さん(撮影/石原たきび)

阿佐ヶ谷の古着屋は、以前は2店舗ぐらいしかなかったが、今は10店舗ほど。ここ1、2年で急激に増えたという。

「阿佐ヶ谷はみんなマイペースで、人の流れがゆっくり。個人商店が多いから街歩きが楽しいですね。うちには日が暮れてから食材などの買い物のついでに寄ってくださるお客さんがいます」

お気に入りの焼肉店についても教えてくれた。

「高架下にある『清香苑』という小さなお店で、入り口も目立たない奥まったところにある街の焼肉屋さん。ここは本当に美味しくて雰囲気も好きです」

来たことがなかった阿佐ヶ谷の雰囲気に一目惚れ

松山通りをさらに奥へ。ラストは昨年7月にオープンしたばかりのカフェ、「エムベイクハウス」だ。

オーナーの内田 萌さん(29歳)は総合電機メーカーで働きながら、好きなお菓子の勉強を始めた。現在、店ではこだわりのドリンクと季節の焼き菓子を提供している。

エムベイクハウス内田さん(撮影/石原たきび)

エムベイクハウス内田さん(撮影/石原たきび)

「じつは阿佐ヶ谷に来たことがなかったんです。物件は目黒区、大田区あたりで探していました。でも、たまたまこの街を訪れたとき、感覚的に好きだなと思いました。特に北側はざわざわしていないし、落ち着いた雰囲気が好きだなと」

そんな折、この物件に出合って契約する。

「お客さんは地元に住んでいる20代から40代ぐらいの女性が多いですね。あとは、バスの乗り換えが阿佐ヶ谷だからといって帰りに寄ってくれる方や、インスタグラムを見て遠くから来てくれる方もいます」

内田さんオススメのドリンクと焼き菓子もお願いした。

「ロンドンフォグラテ」と「レイヤーキャロットケーキ」(セットで1650円)(撮影/石原たきび)

「ロンドンフォグラテ」と「レイヤーキャロットケーキ」(セットで1650円)(撮影/石原たきび)

冬シーズンの人気ドリンク、「ロンドンフォグラテ」はアールグレイティーをベースに、ラベンダーとバニラで香り付けしている。レイヤーキャロットケーキに入っているクルミもいいアクセントになっていた。

「最近、大田区から阿佐ヶ谷に引越して来ましたが、初めて降り立ったときの感覚と変わりません。チェーン以外のお店が多いのが都心にしては珍しいですよね。安くて美味しい手づくりのお店もたくさん見つけました」

「住み続けたい」理由が判明した気がする

かくして、阿佐ヶ谷に店を構える9人に街の魅力について話を聞いた。印象的だったのは「派手なものはないけど楽しく暮らせる」「落ち着いているから住みやすい」「店同士、店と客の結びつきが強い」といったキーワード。

つまりは、「じわじわと良さがわかる街」。シングルが「住み続けたい」理由は、そこに集約されそうだ。一人暮らしのシングルにとっては、街の人々が家族のように感じるのかもしれない。

これまで阿佐ヶ谷はほとんど飲み屋にしか行かなかったが、今回巡ってみると、さまざまな顔をもつ街だとわかった。しかも、どの店も非常に個性的。「エヌキューテンゴ」の齊藤さんが言っていた「若い店主が多いので、そういう人たちと仲よくなると住み続けたいという気持ちも強くなる」という言葉の意味がよくわかる。もし住んだ場合は店主と親しくなって、じわじわと街に溶け込みたい。

阿佐ヶ谷の住民にとってはおなじみ、区役所前のブロンズ像(撮影/石原たきび)

阿佐ヶ谷の住民にとってはおなじみ、区役所前のブロンズ像(撮影/石原たきび)

引用元: suumo.jp/journal