5分100円から。ちょっとした困りごとに駆けつけてくれる不動産屋さん
家の中のちょっとしたことだけれど、誰かの手を借りたい。そんなときに駆けつけてくれる人がいたら……。こうした状況は誰にでもあるのではないでしょうか。気軽に頼める家族や近くに住む友人、親戚がいればいいのですが、そうではない限り、便利屋さんに依頼するほどでもないし……ということで、対処せず我慢してしまうようなことも。
東郊住宅社が2020年秋から始めた「ゴーヨーキーキー」は、頼みたいときに駆けつけてくれて、一緒に対応してくれる家事代行サービス。「サービス内容は本当にちょっとしたことばかりなんですよ」と担当の輿水泰良さんは微笑みます。
■1人作業の場合:5分100円(30分以降は5分300円)
電球交換、買い物代行、パソコンのお手伝い、花木への水やり、簡単な清掃作業、粗大ゴミ処分手伝い、家具の移動、家具の組み立て、部屋の片付け
■2人作業の場合:5分300円(30分以降は5分500円)
引っ越し手伝い、清掃作業、粗大ゴミ処分手伝い、家具の移動、家具の組み立て、部屋の片付け
■管理物件以外(入居者からの紹介があれば、出張料500円をプラスして誰でも利用可能)
上記と同じメニュー、草刈り、庭掃除、共用部の清掃(他社管理物件以外)、空き家の風通し、留守宅の外からの見回り、新聞回収
利用者にとっては、花木への水やりや留守中の見回りをしてもらえれば、旅行や出張の際に安心。また、大きな粗大ゴミを出すのは一人暮らしでは難しいので、必要なときに5分10分、手を貸してもらえると助かる。そんな、ちょっとしたことでも気持ちよくやってくれる人がいるというのは心強いことです。しかも、1人で行える作業の場合、5分100円、10分200円、20分400円(30分以降は5分300円)という格安料金。
同社にとって大きな利益が生じる価格ではありませんが、それでもあえて有料にすることには意味があると言います。
「あるとき、弊社まで家賃を持参くださった入居者にお困りごとはないかと聞いたら『電球を交換してほしい』ということがあったんです。足を悪くされたお年を召された女性で、電球は買ったものの自分では交換できず、暗いまま過ごしていたそうです。もっと早く気軽に言っていただけたらすぐ駆けつけたのにと思ったのですが、ご本人は電球交換のためだけに来てもらうのは心苦しい……と思われたようなのです」
「そのとき、『無料だと逆に気を遣ってしまって頼みにくい』と感じる方々が意外と多くいるのではないかと気付いたんです。有料にすることで対等な関係となって、遠慮せずに頼みやすくなるのではないかと考えました」(輿水さん・以下同様)
巨大蜘蛛の駆除からワックス掛けまで、御用聞き事例あれこれ
そうして始まったゴーヨーキーキー。利用者として想定していたのは、主に高齢者、小さな子どものいる人でしたが、意外に若い世代の利用が多く、学生が半分くらいを占めているそうです。そのほか、賃貸物件オーナーや同社取引会社も対象とのこと。総計3000人ほどがサービスの対象者になっています。
「ご高齢の方からの依頼では、インターネットやプリンターの接続、携帯電話の操作など、デジタル関係が多いですね。あとは賃貸物件オーナーさんからのご依頼も多いです。草刈り、ゴミ処理、買い物代行、換気扇フィルターの取り付け、土地面積の計測などのお手伝いをしました。
若い世代の入居者さんからはさまざまなご依頼が舞い込みます。例えば、フローリングのワックス掛けを一緒にして欲しいとか、巨大な蜘蛛が部屋にいるので何とかして欲しいというようなことがありました。ワックス掛けの依頼は『部屋の同じ場所に座り続けていたら床が汚れてしまったので、汚れ落としとワックス掛けを一緒にしてほしい』ということで、たまたま洗剤などが会社にあったので、それを持って伺いました。蜘蛛駆除は10cmくらいの本当に大きな蜘蛛でびっくりしました」
「何か困ったことはない?」から始まるコミュニケーション
一般的な不動産管理会社であれば、虫が出たから・汚れたから助けてなどの依頼が来るような関係にはなりにくいのではないでしょうか。しかし東郊住宅社の場合、入居者は困ったときに「東郊さんに相談してみよう」と相談先として思い浮かぶ存在となっています。しかし、一足飛びにこうした関係を築けたわけではありません。
まず、呼ばれたらすぐに駆けつけることができるのは、「地元の不動産屋さん」だから。同社が管理する物件は約1800戸あり、その物件のほとんどが半径5km以内に立地しています。
さらに、物理的に身近というだけでなく心理的にも身近であることが、このサービスを使いやすくさせている要因になっています。それは、同社スタッフが入居者に対して常に声掛けをして、“顔見知り”になっているということ。例えば、以前SUUMOジャーナルでも紹介した入居者向け食堂「トーコーキッチン」。朝食100円、昼・夕食500円という低価格でサービスを提供しているだけではなく、同社スタッフが、入居者とその家族や友人、賃貸物件オーナーや関係者とのコミュニケーションを培う場所になっています。
トーコーキッチンで食事をしているとき、淵野辺の街を歩いていてすれ違うとき、あるいは入居者が家賃を同社へ持参するとき、同社のスタッフは「何かお困りごとはないですか?」と積極的に話し掛けているそうです。
「淵野辺という街はぜひここに住みたいという積極的な理由で選ばれることは少なく、大学や職場があるからという理由で住んでいる方が多いんです。そうであってもせっかくのご縁なので、淵野辺でより楽しく安全に、快適に過ごしていただきたいと常に考えています。
ゴーヨーキーキーは今はまだ慣らし運転中で、徐々に浸透しつつある状況です。サービス開始を知った入居者さんや物件オーナーさんと道で会って挨拶した際に、『そういえば新しいサービスを始めたらしいね。便利でうれしいよ。ちょっとお願いしたいんだけど……』なんて声をかけられるようになりました」
退室時に「ゴーヨーキーキーがあって良かった」と思ってもらえれば
現在、トーコーキッチンをきっかけに同社に直接物件を探しに来店する人が圧倒的に増え、自社集客の強力なツールとなっているとのこと。一方、今回のゴーヨーキーキーに関しては、これで集客アップを狙っているわけではないと言います。
「ゴーヨーキーキーは、実際に体験していただかないと良さは伝わらないと思います。どちらかというと、退室時に『このサービスがあって良かった』と感じていただければいいですね。さらに、これがあることで、『やっぱり引越しをやめる』『次の家も淵野辺で探す』となっていただければもっとうれしいです。
私たちは『お困りごと』をきっかけに、入居者さんとの関係性をより深めていきたいと思っています。困ったときに真っ先に当社を思い浮かべていただくとしたら、何よりうれしいことです」
サービスを担当するのは、アルバイトさんを含め、同社の全スタッフ15人。通常業務の一環としてサービス対応にあたっています。
専門的な知識が必要とされる内容についてはスタッフで対応できないこともありますが、「引退された地域の方などにも参加していただき、培ってこられた技術や知識をゴーヨーキーキーに活かしていただければとも考えています」と輿水さん。
「元花屋さんという入居者さんから植物への正しい水やり方法を聞いて、植木を枯らすことがなくなったという当社スタッフがいるのですが、そんな風に、ゴーヨーキーキーで助け合って、友だちの友だちは、みな友だちだ(笑)となれればいいですね」
ウィズコロナ時代、心を支えるツールとしても役立てたい
現在、コロナ禍で外出や人と会う機会がぐっと減り、気持ちも沈みがちという方は多いと思いますが、そうした場合にも利用して欲しいサービスだと輿水さんは言います。
「ゴーヨーキーキーが一番理想とするご依頼は『話し相手をする』です。お金がかかってもいいから話し相手になってというのは、それだけ身近に感じていただいているということではないでしょうか。5分だけでも毎日顔を見せに来てほしいといったご要望もあるかもしれません。心の面でも入居者さんを支えていくことができればいいですね」
ウィズコロナでなくとも、ゴーヨーキーキーでご自宅にお伺いしたり交流を持ち続けたりすることで、何らかの問題……例えば生活苦の早期発見や孤独死リスクの回避にもつながるのではないか、と輿水さん。
それ以外にも、入居者同士の隣人トラブルなど解決が難しい問題も相談事項として発生することが想定されますが、「無理ですと対応するのは簡単ですが、そうではなく、間に入って何とか解決に向けて努力するのが私たちの役割なのではないかと考えています」と輿水さん。
あたふたしつつ一緒に悩む、そんな人間くささに温もりを感じる
サービス内容が決まり切っておらず、内容によってフレキシブルに対応するというゴーヨーキーキーですが、「あたふたと一緒に悩むという人間くささ」がひとつの魅力でもあると感じます。「想定外のハプニングというのは工夫を生みますね。人と人との関係性も深めてくれます」
輿水さんは「当社のような地域密着の小さい会社だからこそできるサービスではないかと思います。私たちは、入居者さんの淵野辺ライフがより快適になるお手伝いをするのが、本当にうれしいんです」と話します。
「デジタル化が進みすぎると人恋しくなりますよね。ゴーヨーキーキーは人と人とが相対するアナログのコミュニケーション。人の温もりを感じる、そんな安心感を持っていただければと思います」
電話1本で駆けつけてくれる安心・快適なサービス。お話を聞いて、淵野辺以外の街にもゴーヨーキーキーが広がってほしいと感じました。