”池袋の隣の地味な駅=大塚”が4年で大変貌! 星野リゾート進出など地元不…

いま大塚が進化中!この10年の変化とこれから

(写真撮影/相馬ミナ)

「最近、大塚がアツいらしい」。そんな話を耳にすることが増えてきた。きっかけは、2018年に、あの星野リゾートが都市型ホテル「OMO」東京第1号を大塚で開業したこと。「東京大塚のれん街」も同時に登場し、大きな話題になった。
その旗振り役は、行政でも大手デベロッパーでもない、地元・大塚の山口不動産。
今回は、代表取締役CEOの武藤浩司さんに、大塚のこれまでとこれからどうなっていくのか、個人的な心のうちを含めて、お話を伺った。

仕掛け人は社員7名の不動産会社

2022年4月に大塚で街イベント「ba fes.(ビーエーフェス)」が開催されると聞き、足を運んだ。本格クラフトビールを楽しめるビアフェスのほか、ステージパフォーマンス、フリーマーケット、「OMO5東京大塚by星野リゾート」でのDJイベントなど、さまざまな催しが大塚の街のあちこちで開催され、おおいににぎわっていた。

4月22日(金)~24日(日)に行われた「北東京を象徴するビアフェス」。地元、南大塚のビアバー「TITANS」が厳選する、東京北部のマイクロブリュワリーと海外のブリュワリーのビールが集合(写真撮影/相馬ミナ)

4月22日(金)~24日(日)に行われた「北東京を象徴するビアフェス」。地元、南大塚のビアバー「TITANS」が厳選する、東京北部のマイクロブリュワリーと海外のブリュワリーのビールが集合(写真撮影/相馬ミナ)

会場は、東京大塚のれん街の隣、山口不動産が管理する駐車場にて開催(写真撮影/相馬ミナ)

会場は、東京大塚のれん街の隣、山口不動産が管理する駐車場にて開催(写真撮影/相馬ミナ)

フェス専用のリサイクルカップを使用するなど、環境に配慮も(写真撮影/相馬ミナ)

フェス専用のリサイクルカップを使用するなど、環境に配慮も(写真撮影/相馬ミナ)

ba01ビル地下1階の「ping-pong ba」では、地元民が出品するフリーマーケットも(写真撮影/相馬ミナ)

ba01ビル地下1階の「ping-pong ba」では、地元民が出品するフリーマーケットも(写真撮影/相馬ミナ)

街の景色を変えた仕掛人は山口不動産の代表、武藤さん。所有するビルに「ba(ビーエー)」と名付け、駅前のロータリーや分電盤にも「ba」のロゴが施されている。大塚駅に降り立った人に「これはなんだろう」と思わせる仕掛けだ。
「そもそも、山口不動産は、この辺りに広い土地を持っていた地主である山口家が、自分の土地・不動産を管理する会社。祖母が山口家の13代目でした。他のどの街でもあるような、不動産を保有して賃料収入を得るだけの会社でした」。親族経営ゆえに冒険はしないのが基本。テナント収入で利益を得ることが優先され、銀行から多額の融資を受けてまで新事業を推進することには消極的になりがちな体質だ。
「でも、それだけでは、面白くないし、小さな会社だからこそ、意思決定はスピーディに行えることも利点なんです」

開発前の大塚(写真提供/山口不動産)

開発前の大塚(写真提供/山口不動産)

現在の風景。大塚駅北口には、ba01、ba02、ba03、ba05、ba06、ba07と6つの建物が点在(写真撮影/相馬ミナ)

現在の風景。大塚駅北口には、ba01、ba02、ba03、ba05、ba06、ba07と6つの建物が点在(写真撮影/相馬ミナ)

baのロゴ(写真提供/山口不動産)

baのロゴ(写真提供/山口不動産)

山口不動産は、この駅前広場のネーミングライツ(命名権)を取得して、2021年3月に「ironowa hiro ba」と命名。豊島区は、支払われた命名権料を広場の維持管理に充てる、という仕組み。その向こうに見えるのは、「OMO5東京大塚by星野リゾート」(写真撮影/相馬ミナ)

山口不動産は、この駅前広場のネーミングライツ(命名権)を取得して、2021年3月に「ironowa hiro ba」と命名。豊島区は、支払われた命名権料を広場の維持管理に充てる、という仕組み。その向こうに見えるのは、「OMO5東京大塚by星野リゾート」(写真撮影/相馬ミナ)

山口不動産代表取締役CEO武藤浩司さん。東京大学を卒業後、メガバンク、大手監査法人を経て、同社へ入社。2018年より現職。インタビュー取材に同席した会社の看板犬・Naluちゃんと一緒に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

山口不動産代表取締役CEO武藤浩司さん。東京大学を卒業後、メガバンク、大手監査法人を経て、同社へ入社。2018年より現職。インタビュー取材に同席した会社の看板犬・Naluちゃんと一緒に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「星野リゾート」誘致からスタートした「baプロジェクト」

「ba」とは「場」の意味。「魅力ある『場』を提供していける会社になりたい」という想い、「b」は『being』で「いること」、「a」は『association』で「つながり」という意味合いもある。
この「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)」は、2018年に、星野リゾートの都市型ホテルが入るビルを「ba01」、賃貸マンションの建物を「ba03」として同時に竣工したことから始まった。さらに、カフェや飲食店が入居している駅前のビルを「ba06」、その向こう側にあるオフィスビルを「ba07」と改名した。

狙いは「“大塚”のまちの体温をあげたい」。

星野リゾート側も、都市観光ホテルブランドを立ち上げるにあたって、観光地ではないけれど滞在すれば、その街の魅力を暮らすように体験できる立地を想定しており、下町情緒の残る「大塚」はまさにぴったりだった経緯もある。
「これまで大塚といえば『池袋の次の駅』といったイメージくらいしかなく、わざわざ降りる場所ではなかったでしょう。それを何とかしたかったんです。『どこに住んでいるの? 』 って聞かれて『大塚』って答えたら、『すっげぇ、いいなぁ 』って憧れられる。それが目標です」と武藤さん。

「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」をコンセプトにした「OMOブランド」。都内初となった「OMO5東京大塚by星野リゾート」は、単に宿泊するだけでなく、「ご近所を楽しむ」という視点でユニークなサービスを展開(写真撮影/相馬ミナ)

「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」をコンセプトにした「OMOブランド」。都内初となった「OMO5東京大塚by星野リゾート」は、単に宿泊するだけでなく、「ご近所を楽しむ」という視点でユニークなサービスを展開(写真撮影/相馬ミナ)

縦空間や壁面を有効活用した櫓(やぐら)寝台のような造りで、秘密基地気分で楽しめるゲストルーム(写真提供/山口不動産)

縦空間や壁面を有効活用した櫓(やぐら)寝台のような造りで、秘密基地気分で楽しめるゲストルーム(写真提供/山口不動産)

同時オープンでインパクト。積極的なテナント誘致で街の顔を変えていく

そのための戦略は、ある意味シビアだ。
注目度の高い星野リゾートと、内装や賃料などの厳しい交渉の末、誘致に成功。この誘致が決定されたことで、飲食店プロデュースの株式会社スパイスワークスの下遠野亘さんを巻き込むことができた。昭和の風情の居酒屋が並ぶ「東京大塚のれん街」と星野リゾートのホテルの同時オープンにこぎつけたことで、大いに話題になり、各メディアに取り上げられた。
「星野リゾートの都市型ホテルの都内一号店でなければ、さらには同時オープンでなければ、インパクトは与えられないと考えました」

昭和の佇まいを残しながら改築した居酒屋の集合体「東京大塚のれん街」(画像提供/山口不動産)

昭和の佇まいを残しながら改築した居酒屋の集合体「東京大塚のれん街」(画像提供/山口不動産)

さらに、入るテナントも「このお店が大塚にあったらイメージがよくなるはず」という観点を優先。さらに食通が足繁く通うことで知られる目黒にある焼鳥店「やきとり阿部」の阿部友彦氏が手がける「やきとり結火」の出店を自ら打診。武藤さん自身が、求心力のあるテナントを仕掛けている。

「やきとり結火」は、焼鳥の名店「鳥しき」で修業し独立した店主の阿部友彦氏の3店舗目になる。ソムリエによるワインのセレクトと焼鳥のマリアージュを楽しめる (画像提供/山口不動産)

「やきとり結火」は、焼鳥の名店「鳥しき」で修業し独立した店主の阿部友彦氏の3店舗目になる。ソムリエによるワインのセレクトと焼鳥のマリアージュを楽しめる(画像提供/山口不動産)

「採算性だけを考えれば、コンビニやドラッグスストア、飲食のチェーン店のテナントを入れるのが正解なのかもしれません。だけど、それではどこでもある街になるでしょう。大塚だからこそ出会える味、経験を提供したいんです。メガバンクや監査法人で働いたこともあるので、数字がいかに大事かは理解しています。しかし、数字だけみていても楽しくない。クリエイティブなこと、アイデアフルなことに投資したい。要はバランスですね」

持続性のあるイベント開催で、大塚を知ってもらうのが第一歩

こうして、「ironowa ba project」の発足を皮切りに、さまざまな分野の人を巻き込み、大塚の街を盛り上げる試みにもトライしている。前出のフェスもそのひとつ。山口不動産グループが直接経営する、星野リゾートのOMO5が入るba1の1階「eightdays dining」では、休日には店外のデッキで小さなイベントを開催することもある。

山口不動産グループが経営するカフェダイニング「eightdays dining」(写真提供/相馬ミナ)

山口不動産グループが経営するカフェダイニング「eightdays dining」(写真提供/相馬ミナ)

ビアフェスでは、「eightdays dining」デッキ部分にお店が出店していた(写真提供/相馬ミナ)

ビアフェスでは、「eightdays dining」デッキ部分にお店が出店していた(写真提供/相馬ミナ)

当初は社員のみの活動だった清掃活動も、お揃いのユニフォームや軍手を身に着けて認知度を上げたことで、テナントで働く人、賃貸マンションに暮らす人なども巻き込んでいき、インスタ等を通してたくさんの人が参加する清掃活動「#CleanUpOtsuka」へと発展した。

「#CleanUpOtsuka」は週2回開催。日常活動のほか、100人規模のゴミ拾いイベントを定期的に開催している。 (画像提供/山口不動産)

「#CleanUpOtsuka」は週2回開催。日常活動のほか、100人規模のゴミ拾いイベントを定期的に開催している(画像提供/山口不動産)

「定期的に開催することで顔見知りが増えたり、大塚という街に愛着を持ってもらえます。コロナ禍で変更を余儀なくされましたが、持続的に開催すれば、『大塚ってなんか面白いな』と興味を持ってもらえる方が増えるはず。実際に、大塚駅のあちこちにある『ba』ロゴに興味を覚え、ネット検索から、僕のnoteにたどり着いた方が、当社の物件を契約してくださったんです」

とはいえ、「まちづくりの仕掛け人」という紹介のされ方には違和感があるという武藤さん。
「おこがましい気がして (笑)。まちを『つくっている』という意識なんて僕にはないですし、僕がしたいのは、“大塚に来てみたら、住んでみたら楽しいな”と思ってもらうこと。僕は、“大塚のまちの体温をあげたい”というのが一番近いかなと思っています」

駅南口は開発が進む北口と雰囲気が異なる。サンモール商店街では趣のある路地散策を楽しめる(写真撮影/相馬ミナ)

駅南口は開発が進む北口と雰囲気が異なる。サンモール商店街では趣のある路地散策を楽しめる(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

都電荒川線が走る、大塚おなじみの風景(写真撮影/相馬ミナ)

都電荒川線が走る、大塚おなじみの風景(写真撮影/相馬ミナ)

「あくまでも個人的な思い」もモチベーションのひとつに

純粋に「育った街を盛り上げたい」という想いとは別に、武藤さん個人の「自分の人生もなんとかしたい」という切実な事情も動機になっている。
そもそも、山口不動産は、元地主の親族経営の会社。武藤さんの祖母は、外孫である武藤さんに期待し、いずれは会社を継がせたいという、未来予想図があった。武藤さんは、東京大学を卒業後、メガバンクへ入行し、大手監査法人へ。ただ、ほどなくしてうつを患ってしまい、退職。当初描いていたよりずっと早く、祖母の会社の山口不動産に入社することになった。

「冒険をせずとも、粛々と日常の業務をこなしていけば、食べてはいけるんですよね。でも、それで本当にいいのかとずっと自問していました。私自身、友人たちの活躍に置いて行かれた気分にもなっていたんです。祖母の想いはあれど、自分が社長職を継げるかどうか、保証も何もなかった。親族内でも社内でも認めてもらうのは、実績が必要だ。そういう自分自身の焦燥感も、モチベーションになっていたと思います」
 
「今後の目標は? 」という質問に、「SUUMOの『住みたい街ランキング』で大塚が上位になること」と答えてくださった武藤さん。このプロジェクトを通して、同じ志を共にする人材も雇用でき、良い循環が生まれているという。武藤さん自身が、自分のうつのこと、親族間の確執、決して成功だけでははない失敗のアレコレなど、「通常なら隠しておいても普通のこと」を、note「僕はまちづくりなんてしてない~大塚からまちの体温を上げる」で発信していることも注目されている。

「noteで赤裸々に語ったおかげで、僕個人に興味を持ってくださったメディアから取材を受けることが多く、大きなPRになっています」(画像提供/山口不動産)

「noteで赤裸々に語ったおかげで、僕個人に興味を持ってくださったメディアから取材を受けることが多く、大きなPRになっています」(画像提供/山口不動産)

「発信を始める前に比べて、僕たちの取組みに共感してくださる方、協力の意思表示をしてくださる方が目に見えて増えたのが、何よりも嬉しい変化でした」。
こうした「あくまでも個人的なエモーション」が、人々を巻き込み、街を変える原動力になる。そんなある意味、原始的なうねりのようなものを「大塚」という街は生み出しているのかもしれない。

引用元: suumo.jp/journal

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