デュアルライフ・二拠点生活[19]東京・佐賀、仕事バリバリ母の「いいとこ…

デュアルライフ・二拠点生活[19]東京・佐賀、仕事バリバリ母の「いいとこ取り」な日々

(写真撮影/唐松奈津子)

「二拠点生活してます」と言うと、仕事は都心で、住まいは田舎で素敵にスローライフ、なイメージでしょうか?
半年前から二拠点生活を始めた筆者ですが、もともと自他ともに認める「超・仕事人間」。田舎時間でゆっくり子育て生活か……というと、実はそうでもなく、仕事と利便性にあふれた都心の生活と両立するため、常にバタバタしています。

「仕事は思いっきり」「子どもはのびのび育てたい」どちらも捨てられず、「まずはやってみよう」と始めた二拠点生活、よろしければご覧ください。

連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます

大人になって見直した故郷「佐賀」の魅力

子どもが生まれてから気付いたことがありました。
「退屈でつまらない」と思っていた故郷が、文化的で美しい「広い平野と水辺にあふれた町」だったことです。

佐賀県庁前のお堀。もともと佐賀城内にあたる佐賀の中心部、佐賀県庁や県立図書館付近はお堀に囲まれており、筆者の小学校から高校までの通学路でもあった(写真撮影/唐松奈津子)

佐賀県庁前のお堀。もともと佐賀城内にあたる佐賀の中心部、佐賀県庁や県立図書館付近はお堀に囲まれており、筆者の小学校から高校までの通学路でもあった(写真撮影/唐松奈津子)

筆者は大学を卒業して5年ほど会社勤めをし、10年ちょっと前に会社を立ち上げて、企業のブランドづくりやプロモーションのお手伝い、パンフレットやホームページなどの制作を仕事にしてきました。会社をつくった年に娘が生まれ、5年前に息子が生まれ、今は仕事と育児をしながら、社会人大学院に通っています。仕事もしたい、子どもも育てたい、学び続けたい……欲張りなのだと思います。

東京でクライアントと新しいサイト立ち上げのための打ち合わせ中。奥側左が筆者(写真撮影/唐松奈津子)

東京でクライアントと新しいサイト立ち上げのための打ち合わせ中。奥側左が筆者(写真撮影/唐松奈津子)

そんな私が東洋大学大学院の公民連携専攻で地方自治体の取り組みについて学ぶなか、佐賀県は「子育てし大県“さが”」を掲げて子育て世帯の支援に熱心なこと、ICT教育への取り組みが全国トップクラスであることを知りました。

さらに近年、佐賀の持つ資源に気付いた面白い人、コトが集まり始めており、「ここちよいさが」を生み出すために4年前から年に1回、「佐賀デザイン会議(仮)」と「勝手にプレゼンFES」がクリエイター30~100人を集めて開かれています。私もそれらのイベントに参加しながら、佐賀の空き家や空き地を有効活用するための事業の準備を進めています。

2019年5月に東京都永田町で開催された佐賀デザイン会議(仮)。勝手にプレゼンFESの紹介をするのはさがデザイン、県庁職員の宮原耕史さん。勝手にプレゼンFESでは佐賀県知事の山口祥義さんをはじめ、県庁の各部署の担当者たちも一堂に会す(写真撮影/唐松奈津子)

2019年5月に東京都永田町で開催された佐賀デザイン会議(仮)。勝手にプレゼンFESの紹介をするのはさがデザイン、県庁職員の宮原耕史さん。勝手にプレゼンFESでは佐賀県知事の山口祥義さんをはじめ、県庁の各部署の担当者たちも一堂に会す(写真撮影/唐松奈津子)

さがデザインは県知事が政策の柱として打ち出した二本柱のうちの一つ。佐賀県庁の2階にあるさがデザインの執務スペース「ODORIBA」は、県内のプロジェクトを紹介するギャラリーも兼ねており出入り自由。筆者も事業の相談等にふらっと寄らせてもらっている(写真撮影/唐松奈津子)

さがデザインは県知事が政策の柱として打ち出した二本柱のうちの一つ。佐賀県庁の2階にあるさがデザインの執務スペース「ODORIBA」は、県内のプロジェクトを紹介するギャラリーも兼ねており出入り自由。筆者も事業の相談等にふらっと寄らせてもらっている(写真撮影/唐松奈津子)

空き家になっていた祖母宅に親戚価格で仮住まい

私が東京・佐賀の二拠点生活を始めたのは2019年の2月から。「もう佐賀には戻らない」と言い放って東京で一人暮らしを始めた18歳の春以来、ろくに佐賀に帰ることもなく、ずっと東京都心で生活してきたのに、です。子どもが生まれてから、特に2人目の男児が生まれてからというもの、狭いマンションのリビングで走り回る息子を見ては、広い土地と自然豊かな佐賀で子育てをしたくて仕方がなくなってきたのです。

佐賀では、介護施設に入って5年近く空き家になっていた祖母の家を親戚価格で借り受けています。ご多聞にもれず、佐賀の住宅地も空き家が増えていて、家の周辺を歩いていると10軒中1~2軒の頻度で空き家を見つけることができる状態です。

筆者の佐賀の自宅周辺。高齢化が進み、空き家もちらほら見られるようになってきた(写真撮影/唐松奈津子)

筆者の佐賀の自宅周辺。高齢化が進み、空き家もちらほら見られるようになってきた(写真撮影/唐松奈津子)

大学院で空き家の研究をしている私は、実際に空き家に住んで、古い家でも快適な暮らしが実現できるのかを確かめたいと思っていました。わが家となった祖母の家は築60年の9DK、敷地内に小川(クリーク)が流れる広い庭もあります。

わが家の間取り。9DKと広すぎて特に2階の客間などはほとんど使わず持て余している感もあるが、子どもたちは家の中で追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり楽しそう(図/唐松奈津子)

わが家の間取り。9DKと広すぎて特に2階の客間などはほとんど使わず持て余している感もあるが、子どもたちは家の中で追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり楽しそう(図/唐松奈津子)

昔ながらの家なので、いたるところに縁側がある。引越したのは2月だったが、寒い冬も縁側でぽかぽか日向ぼっこをして過ごせた(写真撮影/唐松奈津子)

昔ながらの家なので、いたるところに縁側がある。引越したのは2月だったが、寒い冬も縁側でぽかぽか日向ぼっこをして過ごせた(写真撮影/唐松奈津子)

田舎の生活で子どもたちの創造力が開花した!

佐賀での生活を始めて、一番よかったと思うことは、やはり子どもたちの過ごし方です。まだ住み始めて半年強ですが、時間、空間、そして心に余白のある生活は子どもたちのクリエイティビティを開花させたように思います。

小学校5年生になる娘は「いろんなお家の庭がきれいだから、自分も庭に花を植えたい」と言い出しました。近くのホームセンターに行けば、数十円~数百円で花の苗が売られているので、子どものお小遣いでも簡単に10苗くらい買えます。お手本は周りにたくさんあるので、登下校の際に周辺の家の庭を覗き見しては、こんな風に植わっているときれいだ、と玄関から門につづくアプローチを花壇にして試行錯誤しています。

娘がつくった花壇の第1弾が完成したときの記念撮影。夏は小さなひまわりが両脇の花壇にたくさん咲いた(写真撮影/唐松奈津子)

娘がつくった花壇の第1弾が完成したときの記念撮影。夏は小さなひまわりが両脇の花壇にたくさん咲いた(写真撮影/唐松奈津子)

東京では時間があるとテレビを見たい、YouTubeを見たいと私にせがんでばかりいた息子も、引越しの際に使用した山積みの段ボールで工作をする時間が増えました。リビング・ダイニングにテレビもパソコンもiPadもない生活。東京では家電やおもちゃを買い与えるばかりでしたが、佐賀では、ミニカーを走らせる道路もおままごと用の家やベッドも本人による段ボール製になりました。おままごとに使うぬいぐるみは編みぐるみやフェルトでお姉ちゃんがたくさんつくってくれます。

ミニカーを走らせる坂道の道路と街を段ボールで製作中の息子(写真撮影/唐松奈津子)

ミニカーを走らせる坂道の道路と街を段ボールで製作中の息子(写真撮影/唐松奈津子)

娘がつくったぬいぐるみの一例。つくっては弟にプレゼントして反応を見るのがお姉ちゃんのお楽しみ(写真撮影/唐松奈津子)

娘がつくったぬいぐるみの一例。つくっては弟にプレゼントして反応を見るのがお姉ちゃんのお楽しみ(写真撮影/唐松奈津子)

生活コスト、コスパの良さにうれし涙!

さらに大人にとって何よりうれしいのは、ご飯がおいしいこと。
家賃や食費などの生活コストはざっと感覚値で東京の2分の1です。南北に海、中央に山、そして広大な平野がある日本をぎゅっと凝縮したような佐賀の地形は、農作物はもちろん、魚も肉も豊富に手に入ります。

東京にいるときには、子どもたちのお祝いごとに鯛を手に入れようとしても、まず売っているところを見つけるのに一苦労、見つかっても大きなものは1000円を超える値段で買うのに躊躇(ちゅうちょ)したものでした。ところが今は近くのスーパーで真鯛でも1尾300円以下、連子鯛なら1尾100円以下で手に入ったりします。魚がおいしいおいしいと子どもたちがせがむので、私も魚の種類に応じたさばき方をマスターして日々さばきまくっています。

わが家から車で数分のところにあるスーパーの魚売り場。連子鯛1尾98円(税別)。佐賀県は鯛の消費量が全国一、日本全体の平均の3倍以上らしい(写真撮影/唐松奈津子)

わが家から車で数分のところにあるスーパーの魚売り場。連子鯛1尾98円(税別)。佐賀県は鯛の消費量が全国一、日本全体の平均の3倍以上らしい(写真撮影/唐松奈津子)

そして九州はお肉の産地としても有名で、佐賀には「佐賀牛」というブランド牛があります。九州産の和牛だってスーパーのタイムセールを狙えば、私と子ども2人の肉じゃがにちょうどいい1パック150g前後が500円以下で手に入っちゃったりします。

美味しいお肉が安いのでついついタイムセールの時間を狙って買いだめ(写真撮影/唐松奈津子)

美味しいお肉が安いのでついついタイムセールの時間を狙って買いだめ(写真撮影/唐松奈津子)

「田舎あるある」ですが、野菜はご近所や隣に住む両親が知り合いからもらってきたものでかなりまかなえるので、夕飯を準備する時間が十分にないときにはありものの肉と野菜でお庭バーベキューです。私が食材の準備をしている前で10歳の娘が火の見張り番をやってくれるので、娘はかなりのバーベキューマスターになりました(笑)。

実は行き来も楽チン、東京―佐賀のアクセスと仕事

「でも、移動とか大変ですよね?」
二拠点生活をしていると話すと、必ず聞かれるのがこの質問です。もともと東京・品川の自宅は超効率化、いわゆる「時短」と「両立」を考えて選んだ住まいでした。

息子が通っていた保育園が隣にあり、保育園と渡り廊下でつながる娘の小学校も隣。大小の公園、大きな森を抱える由緒ある神社、区立図書館、住民票取得などの手続きができる地域センター、500円でフィットネス施設を利用できる区の健康センター、コンビニ、駅……それらが全て徒歩5分圏内にあります。

保育園の隣にある東京の自宅。ベランダからは保育園の園庭が見える近さ。たまに息子がベランダからのぞくと、引越し前まで同じクラスだったお友だちが園庭から呼びかけてくれるときも(写真撮影/唐松奈津子)

保育園の隣にある東京の自宅。ベランダからは保育園の園庭が見える近さ。たまに息子がベランダからのぞくと、引越し前まで同じクラスだったお友だちが園庭から呼びかけてくれるときも(写真撮影/唐松奈津子)

マンションの階段からは娘が通っていた小学校の体育館やグラウンドが見える(写真撮影/唐松奈津子)

マンションの階段からは娘が通っていた小学校の体育館やグラウンドが見える(写真撮影/唐松奈津子)

羽田空港から車で20分の東京宅、佐賀空港から車で20分の佐賀宅を行き来するのは、実は思ったよりも負荷が少ないのです。今のところ、子どもたちのいる佐賀を主な拠点として、私は月に2~3回往復しながら約1/3を東京、残りの2/3を佐賀で過ごしています。たしかに移動に多くの時間を費やすことは効率が悪いかも……と思っていましたが、いざ始めてみると、移動中にやる仕事は無茶苦茶はかどる! それこそデスクワークは1日分のタスクを移動中に終わらせることができるくらいです。ちなみにこの原稿も飛行機の中で書いています。

片道1時間半~2時間の飛行機の中。私はパソコンを、息子は絵本を広げて過ごすのがお約束(写真撮影/唐松奈津子)

片道1時間半~2時間の飛行機の中。私はパソコンを、息子は絵本を広げて過ごすのがお約束(写真撮影/唐松奈津子)

LCCが使えるようになり、時間に余裕があるときは成田空港から佐賀へ。セールのときは片道2000円以下、平常時は8000円前後で成田―佐賀間を移動でき、子どもたちも1~2カ月に1回の飛行機移動にすっかり慣れた(写真撮影/唐松奈津子)

LCCが使えるようになり、時間に余裕がある時は成田空港から佐賀へ。セールの時は片道2,000円以下、平常時は8,000円前後で成田―佐賀間を移動でき、子どもたちも1~2カ月に1回の飛行機移動にすっかり慣れた(写真撮影/唐松奈津子)

東京での打ち合わせや会議は、取引先の協力を得ながらWEB会議のシステムを利用することで、効率化できるようになりました。

パパは東京の会社に勤めており、品川の自宅にいるため、月に1回程度は子どもたちを東京に連れて休みを過ごします。もちろん、逆にパパが佐賀に来て過ごすパターンも。私が仕事で東京にいる間は、子どもたちは隣に住む両親(子どもたちにとっての祖父母)と過ごします。都心と地方、両方の地域性を実際に住んで体感できること、親以外の「ナナメの関係」である祖父母とも生活を共にする時間があること。それが今後の子どもたちの将来にどう影響するか、楽しみにしているところです。

東京にいるときの休日はパパとお出かけしたり、ゆっくり過ごすのがうれしい息子(写真撮影/唐松奈津子)

東京にいるときの休日はパパとお出かけしたり、ゆっくり過ごすのがうれしい息子(写真撮影/唐松奈津子)

二拠点生活を始めて、気づいたことがあります。それは、都心でも田舎でも、結局多くの人に助けられながら子育てをしているということ、だからこそ「人との繋がり」のありがたさを再認識したことです。

多くの子育て世代が同じ場所にいた東京・品川での子育ては同級生のパパやママ、今でもベビーシッターさんにたくさんお世話になります。故郷でもある佐賀で感じるのは親戚やご近所、同級生の「身内感」がとにかく楽なこと。昔ながらの緩やかなコミュニティが成り立っていて、毎月会費を払うことで運用される自治会、月に一度、朝7時から近くにある公園の掃除に参加するのも気持ちが良いものです。

テレワークや在宅、副業OKなど、企業においても働き方がどんどん多様になってきました。また、LCCの普及やネットワーク環境の整備により、移動も、仕事をする環境も飛躍的に便利になりました。私は実際に自分が二拠点生活を始めてみて、多くの恵みと多くの人との出会いに感謝しています。だからこそ、仕事で忙しいという人にも「試しにやってみたら?」と提案したい暮らし方です。

引用元: suumo.jp/journal