空き家がレトロおしゃれな150店舗に大変身! 長野・善光寺周辺にカフェや…

空き家専門不動産屋さんの“まちづかい”。新たな拠点でワクワクする交流が活発化

(撮影/塚田真理子)

長野県長野市の善光寺門前エリアは、若い世代を中心に空き家をリノベーションした店が増え、にぎわいを創出しているまちとして、全国的にも注目が集まっています。その立役者として知られるのが、空き家専門不動産会社「MYROOM」の倉石智典さん。事業を始めたい人に空き家を仲介するに至った思い、長年まちを案内している「空き家見学会」のこと、新たな拠点でスタートした“まちづかい”への取り組みについて、お話をうかがいました。

空き家活用で150店舗オープン。空き家専門不動産会社「MYROOM」

長野駅からぶらぶら歩けば30分ほど。古い街並みが残る善光寺門前エリアでは、ここ20年ほどの間、空き家を活用した小さな店舗が次々とオープンし、にぎわいを生み出しています。

観光客でにぎわう善光寺表参道(撮影/新井友樹)

観光客でにぎわう善光寺表参道(撮影/新井友樹)

この界隈で事業を始めたい人と空き家をつないでいるのは、2010年に創業した「MYROOM」代表の倉石さん。MYROOMはいわゆる通常の新築・中古物件は取り扱わない、空き家専門の不動産会社です。設計事務所と建設業も兼ねていて、リノベーションの設計施工や管理までワンストップで行っています。

「空き家の未来をデザインする」をコンセプトにMYROOMを立ち上げた倉石智典さん(撮影/新井友樹)

「空き家の未来をデザインする」をコンセプトにMYROOMを立ち上げた倉石智典さん(撮影/新井友樹)

これまで倉石さんが事業者と空き家をマッチングした事例は、ゲストハウスに雑貨店、ブックカフェなど、およそ150軒にものぼります。そもそも、なぜ空き家専門の不動産会社を始めようと思ったのでしょうか?
「空き家を専門に扱っている不動産会社がなかったからです。なにも、地域活性化とかまちににぎわいを、と考えたわけではなくて、ビジネスとして、ニッチなところを狙ったというわけです」と、倉石さんは穏やかに話します。

創業当初、空き家は全国的に問題になり始めていました。ご多分に漏れず、長野市中心部の善光寺界隈も、使い手のいない古い空き家が増え続けていたころ。「建物って、地理や産業の成立ちを背景に建てられてきたじゃないですか。今は時代が変わって、ライフスタイルも変わった。人生の中で人は移動するし、人口もどんどん減っている。地理も産業も引継ぐ必要性はなくなりましたよね。どこでも住めて誰でも家が手に入る。このままでは、空き家だらけになっていってしまいます」

倉石さんの仲介で、築70年の建物がカフェと古着屋に生まれ変わった(撮影/塚田真理子)

倉石さんの仲介で、築70年の建物がカフェと古着屋に生まれ変わった(撮影/塚田真理子)

「一般的な不動産会社では、不動産価値のない古い空き家は取り扱いません。一方で、空き家バンクなどでは、行政が費用を出して無料でサイトに掲載をしています。いわゆる“1円物件”などもそう。でも、これまで大切に引き継いできた土地や家を使わないからといって使い捨ててしまうようで悲しいし、違和感を感じていました」

空き家は決して単体で存在していたわけではなく、古く長く、地域で引き継がれてきたものです。その大切な建物を、使いたい人が楽しく使わせてもらう、それがまちを引き継いでいくことにつながる。そんな思いが倉石さんのなかにはあったのです。

古さが味わいに。カフェも古着店も客層は幅広いという(撮影/塚田真理子)

古さが味わいに。カフェも古着店も客層は幅広いという(撮影/塚田真理子)

おもしろいのは、小商いをしてみたい事業者と空き家をマッチングするその手法です。倉石さんは事業者の「やりたいこと」をヒアリングし、倉石さんの頭の中にあるまちの地図や歴史や現在地、人の流れなどをもとに、「ここならうまくいくんじゃないか」という相性のいい物件候補を提案してくれます。
「空き家は歩いて見つけて、所有者を調べて訪ねて行って、貸していただけそうなところはストックしています。でも、所有者がわかっても貸さない、貸せないとか、いろいろな事情がありますよ」と倉石さん。そう、大家さんに頼まれて仲介しているわけではないので、順番が逆なのです。その建物はかつてどう使われていたのか、まちのなかでどんな存在だったのか。この家に合うのはどんな人かな、今ここでどんな商売をやったら地域に溶け込めるかな……そんなことを日々妄想している倉石さんだからこそのマッチング方法なのです。

その妄想をみんなでできたらいいな、という思いで毎月開催しているのが、2011年から続く「空き家見学会」です。

■関連記事:
シャッター街、8年で「移住者が活躍する商店街」に! 20店舗オープンでにぎわう 六日町通り商店街・宮城県栗原市
コンビニが撤退危機だった人口減の町に、8年で25の店がオープン。「通るだけのまち」を「行きたいまち」に変えたものとは? 長崎県東彼杵町
「0円空家バンク」で転入者170人増! 家を手放したい人にもメリットあり、移住者フォローも手厚すぎる富山県上市町の取り組みが話題

12年続く「空き家見学会」で、まちを歩いて見えてくるもの

MYROOMでは空き家の鍵を数十軒分預かっているといいますが、物件情報はウェブサイトなどに公開されていません。このエリアで空き家を活用して店を開きたいと考える人は、まず「空き家見学会」に参加することからスタートします。

空き家見学会とは、2011年、善光寺西之門にある編集企画室「ナノグラフィカ」とともに始めたもの。現在は、倉石さんが2021年に立ち上げた新拠点「R-DEPOT(アールデポ)」が引き継ぎ、毎月1回行っています。R-DEPOTについてはのちほど紹介するとして、まずは空き家見学会に同行させてもらいました。

現在は、「R-DEPOT」の若きスタッフがまちを案内している(撮影/新井友樹)

現在は、「R-DEPOT」の若きスタッフがまちを案内している(撮影/新井友樹)

見学会の参加者は、半数が長野市内、半数は市外または県外の人だそう。多いときは10名、平均5~6名が参加します。予約制で時間は2時間ほど、参加費は無料です。

R-DEPOTに集合したら、まずは案内人、参加者ともに自己紹介(撮影/新井友樹)

R-DEPOTに集合したら、まずは案内人、参加者ともに自己紹介(撮影/新井友樹)

観光客はなかなか足を踏み入れない路地へ。昔の地形やかつてこの場所にあったものなど、歩きながら紹介してくれる(写真撮影/新井友樹)

観光客はなかなか足を踏み入れない路地へ。昔の地形やかつてこの場所にあったものなど、歩きながら紹介してくれる(写真撮影/新井友樹)

空き家見学会というネーミングですが、いわゆる物件紹介というものとはわけが違います。物件までの道すがら、今駐車場になっているところには昔こういうお店があって、こんなふうににぎわっていて、細い路地にはかつて川が流れていて……といったように、まちの案内も繰り広げられます。建物は3~4件見学するものの、間取りやスペック、家賃の紹介はありません。というか、貸せるかどうかも決まっていないとのこと。
「空き家になる前の暮らしぶりを参加者の方にはお伝えしています。大家さんやご近所さん、大工さんから聞いたエピソードなども交えたりして」(倉石さん)

この日見た建物は3軒。古いガラスのレトロさにグッとくる(撮影/新井友樹)

この日見た建物は3軒。古いガラスのレトロさにグッとくる(撮影/新井友樹)

ここは昔タバコ屋さんだったところ。2階は住居だった模様(撮影/新井友樹)

ここは昔タバコ屋さんだったところ。2階は住居だった模様(撮影/新井友樹)

坂の上に立つだけに、2階の窓を開けると、眺めがいい!(撮影/新井友樹)

坂の上に立つだけに、2階の窓を開けると、眺めがいい!(撮影/新井友樹)

100年前にどうしてここに建物が建ったのか。使われなくなったとき、とっくに壊して駐車場にすることもできた、けれど壊さなかった理由ってなんだろう。代々ご先祖様から引き継いでいる建物だから。街並みが壊れるから。ご近所に申し訳ないから。まちのおかげで商売できていたから――その背景を知ることが大切だと思い知ります。

まちを歩き、実際の建物を見ながらそんな話を聞いていると、当時の風景がよみがえるように想像できました。そしてこれからここをどう使ったら楽しいのだろう?と、これからの“まちづかい”のことも想像できた気がします。これは、画面上ではきっとわかりえなかったことで、現場だからこそ感じられた体験なのでしょう。

大通り沿いに立つ建物。昔の記憶やエピソードがその家ごとに詰め込まれている(撮影/新井友樹)

大通り沿いに立つ建物。昔の記憶やエピソードがその家ごとに詰め込まれている(撮影/新井友樹)

古い農機具のポスターや看板も残されていて、時が止まったかのよう(撮影/新井友樹)

古い農機具のポスターや看板も残されていて、時が止まったかのよう(撮影/新井友樹)

1件目の空き家は築100年くらいで、もともとは篩(ふるい)屋さんだったとか。2軒目は元タバコ屋。玄関横に窓口があって、ここでコーヒースタンドとかやったら楽しいだろうな。3軒目の広い農機具店は、ガラスの掃き出し窓から見える小さな中庭が素敵で、シンボルツリーみたいな木を植えたら映えそう。こんなに広いならシェアハウスがいいかも?と、思わず妄想がふくらんだのも楽しい経験でした。

R-DEPOTに戻ったら、見学会参加者は「門前暮らし相談所」にも参加できます。門前でしたいこと、使いたい空間についてなど、スタッフと個別に相談できます。この日一緒に参加した男性は、学生時代この辺りに通っていたといい、得意な語学を活かして物販の店をやりたいと語っていました。果たして次のステップに進めたのでしょうか。

「同じ場所を見ても、どう受け止めるかは人によって違います。ここを引き継ぎたいと思うかどうか。いい人がいい使い方をしてくれたら、大家さんも、建物も、地域もみんなが喜んでくれます。残したい人と使いたい人の手助けになれればいい。選択肢のひとつを提示できたらいいなと思っています」(倉石さん)

倉石さんがつないだ、若きオーナーと空き家の現在地

カフェ「POLKA DOT CAFE」のオーナー・山田大輔さん(右)と、古着店「COMMA」オーナーの駒込憲秀さん(左)(撮影/塚田真理子)

カフェ「POLKA DOT CAFE」のオーナー・山田大輔さん(右)と、古着店「COMMA」オーナーの駒込憲秀さん(左)(撮影/塚田真理子)

実際に倉石さんの紹介で空き家を借り、商いを始めた2組のオーナーさんにも話を聞いてきました。
まず1組目は、1階でカフェ、2階で古着屋を営む幼馴染のふたりです。きっかけは、30歳で東京からUターンし、地元で飲食店を始めたいと思った山田さんが、同級生の駒込さんに声をかけたこと。「彼が、いつか自分で古着屋をやりたいと話していたのを思い出したんです。2人でやれたら家賃も安く済むと思いました。善光寺門前エリアは古い建物をリノベしたおしゃれな店が多いから、若い人たちが来てくれるんじゃないかなと」(山田さん)。

古い建物は山田さんが希望していたレトロポップな雰囲気によく合う。倉石さんに相談しながら、自分たちも壁を塗るなどして改装した(撮影/塚田真理子)

古い建物は山田さんが希望していたレトロポップな雰囲気によく合う。倉石さんに相談しながら、自分たちも壁を塗るなどして改装した(撮影/塚田真理子)

残置物のアイスケースが活躍。「床は知り合いの子どもがペンキのついた靴で歩き回っちゃったので、いっそ、それで行こうか、と」(撮影/塚田真理子)

残置物のアイスケースが活躍。「床は知り合いの子どもがペンキのついた靴で歩き回っちゃったので、いっそ、それで行こうか、と」(撮影/塚田真理子)

翌月の空き家見学会まで待つ時間が惜しく、MYROOMの倉石さんに直接連絡を取り、このまちでやりたいことを語ったふたり。広くて2店舗を仕切れそうな建物を3件紹介してもらい、最初に見たこの2階建ての建物に決めました。
「築70年以上ですかね。昔はそば屋さんだったようですが、物置状態で。住まいだった2階は床が割れていたりして、正直いうと最初はピンときませんでした。でも、1階と2階で店が分けられるのはいいなと思ったし、原状回復不要で好きなようにリノベーションできるから、自分たちの世界観がつくりやすい。MYROOMさんが手がけたほかのリノベ物件もおしゃれだったので、そのままお願いすることにしました」(山田さん)。

費用を抑えるため、自分たちでタイルを貼ったり壁を塗ったりしたことも、愛着が湧く要因に。ちなみに、上の写真のアイスケースは残置物。「これが使えたのもよかった。店でかき氷を出したかったので、アイスストッカーとして大活躍しています」(山田さん)

カフェを通り、奥の階段で2階へ。天井が低いので頭上に注意(撮影/塚田真理子)

カフェを通り、奥の階段で2階へ。天井が低いので頭上に注意(撮影/塚田真理子)

かつて押入れだったところも活用してディスプレイ(撮影/塚田真理子)

かつて押入れだったところも活用してディスプレイ(撮影/塚田真理子)

「地元の成人式で『自分の店を持ちたい』とスピーチしたのを大ちゃん(山田さん)が覚えていてくれて、声をかけてくれたから独立に踏ん切れました」と駒込さん(写真撮影/塚田真理子)

「地元の成人式で『自分の店を持ちたい』とスピーチしたのを大ちゃん(山田さん)が覚えていてくれて、声をかけてくれたから独立に踏ん切れました」と駒込さん(写真撮影/塚田真理子)

敷金・礼金は1カ月ずつ、改装費は1階が500万円、2階が100~200万円ほどかかりました。「家賃は1棟で6万円なので、3万円ずつ。コロナ禍には、なにより固定費が低いことのありがたみを痛感しました」とふたりは声をそろえます。

2018年春に2つの店がオープンしてはや5年。その間、同じ通りには革小物の店、美容室、イラストレーターによるTシャツの店など、同様に空き家を活用した店が次々とオープンしています。「昔から商売しているお隣の店主さんに、最近若い人たちが歩くようになってきたねと言われました。歩いてあちこち店をめぐれたら楽しいし、まちもにぎわいますよね」

3階建ての団地の一室がおしゃれな焼き菓子店に

HEIHACHIRO BAKE SHOPオーナーの小渕哲さん。戸隠から車で40分ほどかけて毎日通勤している(撮影/塚田真理子)

HEIHACHIRO BAKE SHOPオーナーの小渕哲さん。戸隠から車で40分ほどかけて毎日通勤している(撮影/塚田真理子)

2019年、築50年ほどの元NTTの社宅だった団地の一室にオープンしたのが、「HEIHACHIRO BAKE SHOP」です。店主の小渕哲さんは、スキー場がある山のリゾート、長野市戸隠で妻とともに焼き菓子店を営んでいましたが、長野市のまちなかにも出店したいと考え、ネットで情報を収集。
「まちづくりにも興味があって、数年前には空き家見学会にも参加したことがあったんです。そのときから、店というのはまちをつくる大事な要素なんだなと考えていました」

MYROOMの倉石さんとも面識があったことから、事業計画書を持参して相談してみることに。そこで紹介してもらったのが、このCAMPiT本郷団地でした。

「駐車場が6台確保できたことが決め手になりました。ここ長野市三輪は門前エリアから車で6~7分と少し離れた住宅街で、調べてみると市内でもかなり人口が多い。地域のお客さまに日常的に利用してもらえたらと思ったのです」

信州大学とのプロジェクトで既に完成していたというウッドデッキ。天気がいい日はパラソルとベンチを設置。ここで焼き菓子を食べることもできる(撮影/塚田真理子)

信州大学とのプロジェクトで既に完成していたというウッドデッキ。天気がいい日はパラソルとベンチを設置。ここで焼き菓子を食べることもできる(撮影/塚田真理子)

もとの間取りは3LDK。「完成させてから入居者を募集するのではなく、住み手や使い手の想いに合わせて自由に使えるようにしたい」という倉石さんの考えから、内装や設備はあえて改装しないまま残されていました。
リノベーションは、雑誌の写真など小渕さんが好きなテイストを提示して、倉石さんやMYROOMの施工担当者と相談しながらつくり上げました。水回りなどは移動させたため、配管工事などに費用がかかったといいます。リノベーションとの総額はおよそ800万円。
現在、この団地にはHEIHACHIRO含め4つの店舗と会社が入っていて、ほかに住宅としても活用されているそうです。

床は工事現場で使っていた足場材を再利用。古道具店で購入した棚に焼き菓子を陳列している。人気はマフィンとスコーン(撮影/塚田真理子)

床は工事現場で使っていた足場材を再利用。古道具店で購入した棚に焼き菓子を陳列している。人気はマフィンとスコーン(撮影/塚田真理子)

さらに小渕さんは、HEIHACHIROの経営が軌道に乗ったころ、かねてからやってみたかったドーナツ店の開業に取り掛かります。善光寺門前エリアにより近い立地で空き家がないか倉石さんに相談したところ、ちょうどR-DEPOTを立ち上げるべく、長野市西後町の元NTTのビルを改装中だったタイミング。
「ビルの離れのようなところに、倉庫だったのか、守衛さんがいたところなのか、6.5坪ほどの空間があったのです。この辺りは官公庁に近く人通りもあるうえ、R-DEPOTにはさまざまな企業も誘致していて、集客も望めそう。そこで、テナントのようなかたちで入居させてもらうことにしました」(小渕さん)。

左がR-DEPOT、右が小渕さんのドーナツ店「LAGOM DOUGHNUT & DRINK(ラーゴム ドーナツアンドドリンク)」(撮影/新井友樹)

左がR-DEPOT、右が小渕さんのドーナツ店「LAGOM DOUGHNUT & DRINK(ラーゴム ドーナツアンドドリンク)」(撮影/新井友樹)

路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)

路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)

こちらはどこか路地裏風の、趣のあるロケーションが魅力。厨房設備を入れてドーナツを製造、窓越しに販売するスタイルです。
長野駅と善光寺を結ぶ中央通りから1本入ったところですが、中央通りと比べると家賃は1/3くらいに抑えられているとか。平日はサラリーマン、週末は観光客と、客層は違うものの日中は常に人の流れがあり、気軽にドーナツを買い求める人の姿でにぎわっています。
「ここ(NTT)で昔働いていたとか、団地の焼き菓子店の方は昔住んでいたとか、そういうお客様も来てくださって、懐かしがってくださるのがうれしいです」

路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)

路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)

“まちづかい”の拠点、R-DEPOTが始動

R-DEPOTは2022年6月に完成。元電報局で女性の多い職場だったため、1階と3階は女性用トイレのみというのが建物の歴史を物語る(撮影/新井友樹)

R-DEPOTは2022年6月に完成。元電報局で女性の多い職場だったため、1階と3階は女性用トイレのみというのが建物の歴史を物語る(撮影/新井友樹)

最後に、倉石さんが設立した新拠点「R-DEPOT(アールデポ)」について話をうかがいました。R-DEPOTがあるのは、長野駅と善光寺のほぼ中間地点に立つ築50年ほどの3階建てビルで、元NTTの電報局だったところ。5年以上使われていなかったこの建物を一棟丸ごと借り、「移住創業、まちづかいの拠点」というコンセプトのもと活動をスタートしました。

1階は、R-DEPOTが運営する古道具店とカフェ、オフィス。2・3階は、クリエイターやIT企業など10社ほどに転貸しています。なかには長野県庁がサテライトオフィスとして入居して仕事をしていたり、NHK長野放送局がサテライトスタジオとして1階ショップ横で「善光寺monzen studio」と題するテレビ・ラジオの放送も行っていたりしています。

味のある家具や食器などが並ぶR-SHOP(撮影/新井友樹)

味のある家具や食器などが並ぶR-SHOP(撮影/新井友樹)

1階の古道具店「R-SHOP」は、取り壊される建物からレスキューした家具や雑貨などを、次の使い手につなげるための場所。奥には古材のストックルームもあり、リノベーションの際に再利用したりしています。
「たとえば食器も、お祝いのときやお客さんが来たときに使って、またちゃんと保管しておいたような、とっておきのものもあるんです」と倉石さん。代々大切に受け継がれてきたものは、これからも想いを引き継ぎながら使ってほしい。1階は誰でも利用もできるので、ふらりと立ち寄って、気軽に手に取ってみられるのもいいですよね。

この建物と出会ったとき、「新しい拠点にできたらいいな」とインスピレーションがわいたという倉石さん(撮影/新井友樹)

この建物と出会ったとき、「新しい拠点にできたらいいな」とインスピレーションがわいたという倉石さん(撮影/新井友樹)

たとえばこの家具のタイトルは「Rがチャーミングなタンス」。どこから、いつレスキューしてここに来たのかも、商品の魅力とともに伝えている(撮影/新井友樹)

たとえばこの家具のタイトルは「Rがチャーミングなタンス」。どこから、いつレスキューしてここに来たのかも、商品の魅力とともに伝えている(撮影/新井友樹)

カフェも併設。ちなみに、上で紹介した「LAGOM」のドーナツをカフェに持ち込むこともできる(撮影/新井友樹)

カフェも併設。ちなみに、上で紹介した「LAGOM」のドーナツをカフェに持ち込むこともできる(撮影/新井友樹)

一角にはカフェもあります。移住相談をしたい人、新しく事業を始めたい人など、お茶を飲みながらコミュニケーションの入り口になれば、と考えたからです。

R-DEPOTでは移住者交流会も開かれています。既に移住した人、これから移住を考えている人ともに参加でき、先輩移住者からの経験談やアドバイスが聞ける座談会のようなもの。具体的な補助金の話や、移住創業情報、まちのおすすめスポットなども教えてもらえます。

長野駅前で65年ものあいだ営業し、昨年惜しまれつつ閉店した喫茶店の什器なども引き取っている(撮影/新井友樹)

長野駅前で65年ものあいだ営業し、昨年惜しまれつつ閉店した喫茶店の什器なども引き取っている(撮影/新井友樹)

上階にはシェアオフィスやコワーキングスペースも。移住創業を始めた人、地元企業、入居者、R-DEPOTスタッフなどが交流し、仕事につながるきっかけづくりをめざす(撮影/新井友樹)

上階にはシェアオフィスやコワーキングスペースも。移住創業を始めた人、地元企業、入居者、R-DEPOTスタッフなどが交流し、仕事につながるきっかけづくりをめざす(撮影/新井友樹)

キャンプを思わせるパブリックエリア。休憩に使うほか、クリエイターがポップアップイベントを行うことも(撮影/新井友樹)

キャンプを思わせるパブリックエリア。休憩に使うほか、クリエイターがポップアップイベントを行うことも(撮影/新井友樹)

さらに、空き家にまつわるさまざまな取り組みが、R-DEPOTを拠点にスタートしています。長野市の認定事業として始まった「まちの家守(やもり)事業」も、新しい試み。
「空き家を貸したい人と借りたい人をつなぐウェブサイト『まちの掲示板』をつくります」(倉石さん)。まちに引き継ぎたい空き家のストックと、まちで始めたい事業を、サイトでPRできます。
物件については、かつてどのように使われていたか、地域の中の位置付け、改修はいくらくらいかかりそうか、といった話を。事業希望者はどんなマーケットがあって、売り上げはいくらくらい望めそうか、ということを相談できるといいます。

そのなかから、ストック1物件、事業者1組をピックアップして紹介する「まちの寄合会議」を公開開催します。これは、不動産会社、デザイン会社、経営コンサル、金融機関、創業者OBなどがガイドとして参加する、2日間のユニットワーク。
「現地調査やデザインワーク、事業計画など、これまで事業者が自分でやらなくてはならなかったこと、MYROOMが時間をかけてサポートしてきたことを、2日でまとめて、みんなで考えて共有しようという企画です。成約するかどうかは、別の話。お互いにこんなはずじゃなかった、というのを防いで、事業、建物、地域、3つの価値が高まることが狙いです」と倉石さんは話します。

このほかにもR-DEPOTではさまざまなイベント、相談会などが定期的に催されていて、たくさんの交流が生まれています。もちろん、空き家見学会も継続中です。

R-DEPOTの窓も楽しい掲示板。思わず立ち止まって読んでしまう(撮影/新井友樹)

R-DEPOTの窓も楽しい掲示板。思わず立ち止まって読んでしまう(撮影/新井友樹)

取材を通して、「この取り組みは、お見合いのようなもの」という倉石さんの言葉が印象に残りました。入り口はネットでも、顔を見せあって名乗るところが最初のスタートライン。自分の希望だけではダメで、縁やタイミングもあるでしょう。倉石さんたち経験を持った人が仲人になって、お互いに知る期間を設けることも大切。
物件単体の仲介では決してなく、あくまでも“まちを引き継ぐ関係づくり”に重きを置いていることがわかります。
まちなかにR-DEPOTという拠点があることで、建物とまちの魅力が伝わって、それを引き継ぎたい人にバトンを渡せる。結果として楽しい“まちづかい”が実現していくことに、思わず心が躍るようでした。

引用元: suumo.jp/journal