古都鎌倉の街並みを守れ! 市所有「旧村上邸」を通じてSDGsを考える

古都鎌倉の街並みを守れ! 市所有「旧村上邸」を通じてSDGsを考える

(写真撮影/長井純子)

旧いお屋敷や神社仏閣が残る街並みが魅力の、古都・鎌倉。その鎌倉市の景観重要建築物等に指定されている「旧村上邸」は、個人宅でありながら能舞台や茶室のある主屋、別棟の茶室、日本庭園が780坪(約2600m2)もの敷地に広がる、それは立派なお屋敷だ。そのお屋敷が鎌倉市に寄贈され、自治体SGDsモデル事業として新たな活用が検討されているという。筆者も鎌倉市民、気になるその検討現場を潜入レポートしてきた。

そもそも、「旧村上邸」ってどんな家?活用方法検討中の現場に潜入!

鎌倉市の旧市街地のなかでもひときわ緑豊かで静かな環境が残る西御門エリアに建つ旧村上邸見学に自転車で駆け付けた。立派な門構えやたたずまいでスケールの大きさがひしひしと伝わってくる(写真撮影/長井純子)

鎌倉市の旧市街地のなかでもひときわ緑豊かで静かな環境が残る西御門エリアに建つ旧村上邸見学に自転車で駆け付けた。立派な門構えやたたずまいでスケールの大きさがひしひしと伝わってくる(写真撮影/長井純子)

1990年(平成2年)に景観重要建築物に指定された証に、門前には説明プレートが。これによると、築年は不詳ながら、1939年(昭和14年)以前の明治末期から大正にかけての建築と推定される(写真撮影/長井純子)

1990年(平成2年)に景観重要建築物に指定された証に、門前には説明プレートが。これによると、築年は不詳ながら、1939年(昭和14年)以前の明治末期から大正にかけての建築と推定される(写真撮影/長井純子)

鎌倉市が指定した景観重要建築物等は、「鎌倉文学館」(指定第1号)や「旧華頂宮邸」(同29号)といった名だたる観光名所など計33件。「旧村上邸」(同18号)は能舞台や茶室のある主屋、別棟の茶室、日本庭園が約780坪もの敷地に広がる、個人宅とは思えない規模の立派で美しいお屋敷だ。村上夫妻がお住まいになっていた時代は、ここに文化人を招いて、能・謡曲の会・茶会などを開催し、伝統文化を伝え、地域の人たちとも楽しむ、豊かで貴重な交流の場であったという。

主屋には個人宅とは思えない、荘厳かつ本格的な能舞台まであり、伝統文化を愛した先人の思いが伝わってくる(写真撮影/長井純子)

主屋には個人宅とは思えない、荘厳かつ本格的な能舞台まであり、伝統文化を愛した先人の思いが伝わってくる(写真撮影/長井純子)

2014年に亡くなった梅子夫人の「建物は壊さず、市民のために使ってほしい」との遺志から、2016年に土地と建物は寄贈され鎌倉市の所有に。最善の活用方法を模索していた市は、近隣住民や地元の民間企業などとの対話型市場調査を実施した結果、鎌倉の中でもひときわ閑静な周辺環境を守りつつ建物を活用するために、シェアオフィスや近隣自治会の集会所などとして活用する大方針を策定。公募型プロポーザル方式で募集し、事業主体者を決定して具体的運用の検討が始まった。

実はこの「旧村上邸」の活用案公募時、自分も市民として所属する団体で何かできればと見学に駆け付けた。しかし、想像をはるかに超えた規模の歴史ある建物を守り、活用しながら次の世代につないでいくためには相当のパワーが必要。現地を見学して荘厳さに圧倒されると同時に毎朝雨戸を全て開けるだけでも大変だと応募を断念した経緯があった。個人の手には負えないものの、民間の事業主体として選ばれたエンジョイワークスが市民も巻き込んで一緒に「旧村上邸」活用を考えるプロジェクトを立ち上げたと聞いて、さっそく参加してきた。

自治体SDGs未来都市に選ばれた鎌倉市のSDGsモデル事業でもある古民家活用

2019年5月の「旧村上邸オープン」に向けて、活用方法など詳細を検討する市民参加型のイベントは計8回。イベント内容についてはSNSに告知され、会場の規模次第ではあるものの定員は毎回30名ほどで、自由に参加表明でき、当日の様子も写真や動画などで確認できる。実はこのイベント参加を通じて、私は鎌倉市がSDGs未来都市に採択されていて、「旧村上邸」の活用もSDGsのモデル事業であるということも恥ずかしながら初めて知った。

ここ数年、ニュース等でよく耳にするようになった「SDGs(エスディジーズ)」。SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年に国連で開かれたサミットで決められた国際社会共通の目標。17のグローバル目標と169のターゲットからなる具体的行動指針を2030年までに達成して持続可能な未来を実現するべく、国際社会全体で取り組んでいるのだ。

この目標を達成すべく、日本政府や日本企業も具体的に動き出している。2018年には内閣府地方創生推進事務局により全国から公募された中から、29の「SDGs未来都市」、および10の「自治体SDGsモデル事業」が選定された。身近なところでは、神奈川県、神奈川県横浜市、そして神奈川県鎌倉市が「自治体SDGsモデル事業含むSDGs未来都市」に採択されている。鎌倉市が推奨する「持続可能な都市経営『SDGs未来都市かまくら』の創造」のポイントは「経済」「社会」「環境」の連携で、この「旧村上邸」活用もそれを具体化するモデル事業なのだ。

鎌倉市HPより引用

鎌倉市HPより引用

「旧村上邸」をどう活かす?市民も自主参加で共創する白熱の検討プロジェクト

市民参加検討イベント(第3回)は桜咲く地元の中学校を会場に、松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるクロストーク。筆者はここで初めて鎌倉のSDGsへの具体的な取り組みを知った(写真撮影/長井純子)

市民参加検討イベント(第3回)は桜咲く地元の中学校を会場に、松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるクロストーク。筆者はここで初めて鎌倉のSDGsへの具体的な取り組みを知った(写真撮影/長井純子)

では、企業研修場として運営開始までの市民参加イベントの状況をレポートしよう。「旧村上邸から持続的な都市経営を考える」と題した松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるトークセッションでは、まずは清水教授から国際社会の視点から見た鎌倉の魅力と課題(新陳代謝で変化し続けることが結果的に伝統を守ることにもなる)について各国の具体事例をもとにお話しいただく。さらに松尾市長からは、鎌倉市の具体的なSDGsの取り組みについて伺うが、身近なはずなのに知らないことが多く驚く。その後も参加者である市民も交えて質疑応答があり、熱いトークが繰り広げられる。

ある時は鎌倉市役所最上階の眺めの良い会議室で、ある時は鎌倉で働く人のための食堂で、検討プロジェクトは積極参加の市民で毎回熱い議論に(右写真撮影/エンジョイワークス、左写真撮影/長井純子)

ある時は鎌倉市役所最上階の眺めの良い会議室で、ある時は鎌倉で働く人のための食堂で、検討プロジェクトは積極参加の市民で毎回熱い議論に(右写真撮影/エンジョイワークス、左写真撮影/長井純子)

全8回の市民参加のイベントでは、毎回検討テーマがきめられている。「活用方法アイデア出し」「どんなプロジェクト参加の形があるか」「場を活かす魅力的な企業研修」などなど。複数回参加していると、顔見知りの人も出てくるが、初参加の人も1/3くらいはいて顔ぶれは入れ替わる。参加の動機を伺うと、「地域活動」「街づくり」「SDGs」「古民家」などに興味のある市民や、「鎌倉が好き」という市外の方も。

この市民参加型の活用方法検討イベントとは別に、維持運用にかかるコストをクラウドファンディングで資金調達するための検討イベントもある。どちらも参加者は自主的に集まっているだけあり、皆熱く発言するので、時間がいつも足りないほど白熱。意見も実に的確で、想像するに皆さん専門分野でご活躍の方々なのだろう。そして、参加するほどに「旧村上邸に愛着がわいてきた」という。実は筆者もその一人。

これから公開までプロジェクトは続くが、ますます参加者は「旧村上邸」も「SDGs」が他人ごとでなく、自分ごとになっていくことだろう。これらの意見が集約され、具体的にどのように企業研修の場として生まれ変わってお披露目されるのか。いまから発表が楽しみだ。

引用元: suumo.jp/journal

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